愛凛 (2/2)
つめたい夜更けに
一人きりの夜がこんなに寂しいとは思わなかった。同室に住まう似鳥は実家に帰って、狭かった部屋にひとりぽつんと取り残された。
留学していた頃は親と妹と離れて暮らして、ホームシックには何度かなった。だがそれも日を重ねる毎に薄れていき、寂寥感なんていうしみったれた感傷的な気持ちはどこかへ消えてしまった。
それなのに、どうして。いつの間にか自分は弱くなってしまったようだ。誰かと過ごすことが当たり前になってしまい、硬く冷えた心は傷つきやすくて温かみを持った。
凛は舌打ちを一つ溢して、使い慣れた枕に顔を埋めた。畜生、似鳥の奴覚えておけよ。帰ったらただじゃ済まさねえ。
ぐずぐずに溶けた心は少しの障害や攻撃で、すぐに潰えてしまう。それが許せなくてぎりぎりと尖った歯で苛立ちを晴らす。
じわりと、温かい液体が凛の硬く閉じられた目から染み出た。
「松岡先輩!変な恰好で寝たら、首を痛めますよ」
「……にとり?」
「ただいま帰ってきました!」
「お前、2日じゃ…」
「松岡先輩が心配で堪らなかったんですよ。例えば寂しくて一人で泣いてないかなとか、僕を考えて……っていうのは嘘ですけ、ど!?」
突然、抱きついてきた先輩に似鳥は身体を固くさせる。いったいどういうことだろう、夢か、夢なのか。自問自答を繰り返していたが、恐る恐る「まつおか、せんぱい…?」と肩を触る。
「…こんなに寂しいとは思わなかった」
「えっと…?」
「似鳥……お前あったけえな」
「は、はあ……」
先輩の珍妙な行動に目を白黒させていた似鳥だが、次第に欲が出て肩に置いていた手を背中に回した。
「これでもう、寂しくないですね」
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