遙凛 (1/6)
まっしろなまゆ

遙の掬う赤紫の髪は、指の間を零れ落ちていく。その刹那に鼻腔をくすぐる匂いは、自分が普段から使っているシャンプーと同じものだ。
 匂いは鼻から肺へ、心臓へ、血管へ、と全身を駆け巡る。胸の底から沸き上がる甘い鼓動で頬が緩んだ。
 幸福とは、このことなのだろう。そう遙は確信した。好きなひとが目の前に寝ていて、自分と同じような匂いを発している。
「りん」
「ん……はる…?」
「凛、いい匂いがする」
「……るせえ」
 普段は甘えない遙が凛に擦り寄ると、彼はかぶっていた布団を口元まで握り寄せた。それもいとおしくて、部屋中が繭のように柔らかで、暖かな空間になったと錯覚してしまうほどだった。
そろそろ寝よう、と思って布団に入っている凛の元に潜り込んだ。すると、先程まで抵抗していた凛の指先が、遙の服の裾を握った。
 顔は全く見えなくなってしまったが、恐らく真っ赤に染まっていることが予想できる。
「こっち来い」
「はあ?うわ、あ!?」
「凛は温かいな。湯たんぽみたいだ」
「…ハルはつめてーな」
ぶっきらぼうな返しだったが、声には柔かな布でくるまれていた。遙はそれに満足し、凛の腰に回していた腕に力を入れた。
すると強張らせていた身体に更に力が加わった。予測していたが、笑みを抑えきれなかった。フッと笑った空気の振動で、凛は眉間に皺を寄せた。
「笑うなよ、馬鹿ハル」
「ごめん。……ふふっ」
「ハルっ!」
幸せだと再度、遙は感じた。彼のとなりは居心地が良くて、いつまでも抱き締めたくなる。きっとこの感情は、他の誰かには抱かないものだろう。たとえ長年共に過ごしてきた幼馴染みにでさえも、きっと。
名前が見つからないこの感情を、これからも彼と一緒に紡いでいきたい。

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