真凛 (1/3)
夜を繋げる

真琴はたまに怖い顔になる。
特に目が怖い。どこかほの暗く、何を考えているか分からなくなる。
俺は怒らせているのではないか。そう考えているのを察知して、真琴は決まって「そんな怖い顔をしないでよ」と柔らかく笑む。
こっちの台詞だ、と口に出しそうになるが、慌てて飲み下す。言えない、目の前で笑う男に向かっては。
だから俺はよく下に視線を落とす。こうすれば、真琴の怖い顔を見ずに済むから。
でもある日、これは真琴を見て見ぬふりしてるだけじゃないのか、と気づいた。逃げているままでは、何も変わらない。
そう決心した俺は、視線を落とさずに真琴をちらりと見た。
真琴は、泣きそうだった。

「まこ、と」
「…っ!ごめ、ちょっと、目にゴミが入っただけだから」
「嘘だろ。俺、何かしたか?」
「ちがう!何もしてない…っ、凛は、何もしてないよ。俺が…悪いだけだから」

泣きながら、必死に笑おうとする真琴が痛々しい。抱き締めて優しく背中を撫でたいと思った。
だが、意思と身体が思うように繋がらない。俺の指はぴくりともしない。
真琴は嗚咽を抑えようとして、両手を口に当てる。危ない、と勘づいた。
俺も昔、オーストラリアで良い結果を残せずに悔し涙を流した。その時に、ふとハルの顔が過って泣いてる自分が情けなく感じた。
だから焦って嗚咽を止めようとしたら、却って苦しくなって過呼吸になりかけた。
真琴も、その一歩手前にいた。
あれだけガチガチに固まっていた身体は、すんなりと動いて真琴の大きな躯を包み込んだ。

「真琴、大丈夫だから。俺はずっと傍にいる」
「りん、りん…おれっ、っぐ、ずっと…りんのこと……、触りたいって、めちゃくちゃにしたいって最低なことを考えてた。だから、凛に嫌われちゃうって……!」
「ははっ、なんだよそれ。だからずっと、手すら繋がらなかったわけ?」
「うん…」
「真琴も俺も馬鹿だな、うん」
「何それ……」

ほんと馬鹿だな、俺達。
俺も真琴に触れたかった、誰にも見せない表情を独り占めにしたかった。互いへの想いは同じだったのに、それを気づかないだなんて。
真琴が未だにボタボタと涙を溢すものだから、俺の肩には黒い染みができている。まあ、いいか。

「真琴、今夜は泊まるから」
「え…?でも、連絡してないんじゃ……」
「今からでも間に合うだろ。なんだよ、真琴、お前は俺に一人寂しく処理をしろって言うのかよ」
「なっ、えっ、処理って……!」
「だってほら、俺もう勃ったから」
「〜〜〜っ、もう凛!」

真っ赤になる真琴が堪らず俺に抱きつく。その際に触れた下腹部の熱は、俺と負けないくらい熱かった。
真琴は俺の耳に口を寄せ、「歯止め、利かなかったらごめん」と囁いてきたものだから、びくりと身震いしてしまった。

「繋いであげるね」
「ああ、繋いでくれよ」

お前と俺の夜を繋いで。

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