その他 (1/4)
泣かないで、ステラ

「おめでとう、怜ちゃん!!」

土曜日、部活もないただのオフの日なのに、渚君を始めとする岩鳶水泳部の面々が集まっていた。
僕は予想外の訪問にズレた眼鏡を直せず、ただ玄関の扉を開けたままの状態になっていた。
どうしてここに。

「俺の誕生日や渚の誕生日の時は部活があったから祝えたけど、怜の誕生日は休日だろう?」
「だから来た」
「そんな…僕は気にしてませんよ、全然」
「え〜?怜ちゃんは嬉しくないの?」
「とても嬉しいですが……。さ、寒いので中へ」

動かない頭をフル回転させ、冬の寒さから三人を守ろうと家に入れた。
よく見れば、真琴先輩は重そうなペットボトル類を持っているし、遙先輩は何やら肩に少し大きな鞄を掛けているし。
渚君に至っては、パーティーグッズが入ったスーパー袋を持っている。
つまり、僕の家で誕生会をやるつもりなのだろう。しかし、肝心なあの人が居ないのは腑に落ちなかった。

「怜ちゃん?」
「っあ、すみません…!ケーキ、買ってきてくれたんですね」
「ううん、違うよ。江ちゃんがね、行けない代わりに作ってくれたんだ〜」
「江さんが…?」
「意外とコウは器用だな」
「渚、皿を用意して」
「はーい!」

真琴先輩がてきぱきと指示を出す姿を見て、やはり部長である彼はすごいと改めて思う。
自分も何か手伝えないかと申し出たが、真琴先輩は「今日は怜が主役なんだから」とやんわりと断られた。
大人しく座って待っていると、ポケットに入れていた携帯電話が震えた。
開けば例のあの人からの着信である。準備で騒がしい部屋からコソコソと出た。

「もしもし」
『もしもし、怜?ハル達来てるか?』
「来てますよ。今、準備してますけど…代わりましょうか?」
『や、いい。夜は家に居るか?』
「えっと…居ます」
『わかった。じゃあ』

そう言って一方的に切られた。ツーツーと無機質な音が、僕の耳を通り過ぎていく。
祝いの言葉を言われなかった。夜は居るかと聞かれた。それはつまり――、

「怜?どうした」
「っあ、いえ、何でもありません」
「……準備、出来たから」
「ああ、すみません。行きます」

何か言いたげな顔をしている遙先輩だったが、何も言わずに部屋へ戻っていった。

「――つまり…来る、ってこと…?」

ひとりで呟いた言葉は誰もいない廊下で消えていった。


「じゃあね、怜ちゃん!」
「ありがとうございました。わざわざ休みの日なのに…」
「気にするな」
「ハルの言う通り。俺達がしたくてしたことだから」
「そうそう!そんな辛気臭い顔はやめよう」

だからと言って頬を摘まむのは止めてくださいね、渚君。
三人を見送り、家に帰る。少ししてから家族全員が揃い、ケーキを食べた。江さんが作ったケーキより、少し甘かった。
夜も更けていき、そろそろ寝ようかとベッドに横になったら、メールが届いた。
【起きてるか?】
【起きてます】
【ちょっと外に来い】
なんだこの人は。まさかと思い、窓から下を見れば僕が会いたくて仕方なかった人が立っていた。
慌てて寒くないようにカーディガンを羽織り、ついでにもう一枚握る。

「よ、怜」
「よじゃないですよ…!ていうか何ですか、その薄着は」
「寒さには強いから、大丈夫だ」
「……とりあえずこれ、着てください。どうやって来たんですか」
「電車。つうか、もう寝るつもりだった?」
「まあ…そんなところです」

肯定すれば、凛さんは「マジかよ、早すぎるだろ」と少し笑った。時計を見たら9時だった。
仕方ない、課題はもう済ませて何もやることが無かったから。
僕のカーディガンを肩に掛ける彼は、徐に淡い紫色で包まれた物を取り出して渡してきた。

「これ、プレゼント」
「凛さんから…?」
「ああ。開けてみろ」

促されて言われるがままに、包装紙をべりべりと剥がす。すると、中から現れたのは赤と紫のラインが入ったネックウォーマーだった。
ちらりと凛さんに目を遣れば、恥ずかしそうにカーディガンの裾を摘まむ彼がいた。

「ハルが…選んだ。動きやすいだろうって。でもやっぱり……違うのにすればよかったな」
「これ、僕と凛さんですね」
「……そうだ」
「温かいです」

身につけて微笑むと、凛さんは照れたように顔を下に向けてしまった。
何故か同じような身長の彼を、どうしても抱き締めたいと思った。だから家の前だけど、迷わずに手を背中に回した。

「れ、いっ…!?」
「凛さん……ありがとうございます。ずっとずっと大事にします」
「……んなの、当たり前だろ」
「そうですね。お礼はまた泊まりに来たときにしますね」

そう言ってぺろりと凛さんの耳朶を舐めたら、夜でも分かるくらい真っ赤な顔になった。
プライドが高くて、誰よりもストイックで、泣き虫な貴方が好きだ。
耳元で伝えたら、彼が「俺もだよ…バーカ」と震える声で返してきてくれた。

「泣かないで…凛さん」

だって貴方は、僕にとって光輝く一等星なのだから。

<<prev  next>>
[back]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -