真遙 (1/1)
橙色と朱色と

11月なのに12月並の厳しい寒さとは、どういうことだ。おかげでコタツを出すのが早くなった。
だからよく真琴がみかんを持ってくるようになった。橙色のネットを握って、今日も俺の家に来た。

「どうした?」
「明日さ、テスト勉強会するじゃない?だから母さんが、遙君が良ければ泊まりに行けばって」
「そうか…。着替えならまだ置いてある」
「ありがと」

つい最近、幼なじみという長く続いた関係に終止符を打った。今は恋人、というこのネットに入っているみかんより甘い関係だと思う。
真琴は靴を脱いだあと、しっかりと先を扉の方へ向けた。こういう動作を見たら、何となく心が暖まる。

「わ、温かい…」
「みかん、かごに出しとく」
「はーい…。ふわあ、眠たくなるね……」
「寝るなら布団」
「わかってるって」

そう言いながらも真琴は瞼を擦っている。大きな身体を猫背にして、テーブルに顎を乗せている。目は眠気でとろんとしていた。
寝るな、という戒めに頬を摘まんで引っ張る。すべすべしていて気持ちいい。
真琴がムッと眉間に皺を寄せたのですぐに離した。

「痛い…」
「コタツで寝たら死ぬぞ」
「じゃあ、眠気覚ましにみかんでも剥こうかな」
「…………」

みかんのへたのちょうど裏にある窪みに、真琴の貝のように白い爪が突き立てられた。
そこから指を入れて、方向に沿って剥いていく。これを工夫して、よく渚が『見てみてハルちゃん!ヒトデだよ〜』と見せびらかしていたっけ。

「ハル、あーん」
「いい」
「お腹いっぱい?」
「…そうじゃ、ないけど」
「そっか」

真琴は気に留めず、みかんを一粒ずつ大きな指で器用に摘まんで口に運ぶ。
それを黙って見つめていたら、困ったように眉を八の字にした。

「何?やっぱり食べたい?剥こうか」
「いや…もし同棲したら、こんな感じなのかなって」
「……ハル、ちょっとこっち見ないで」
「なんで?」

顔を下に向けて、頬を少し朱色にする真琴がいとおしい。夫婦、とはちょっと違うかもしれないけど、それに近いものになれればいい。
いつかきっと、真琴とこうしてコタツでみかんを食べられるようなものに。

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