ないまぜ。 | ナノ




少し古びた外観の小さな御堂

滅多に人も寄り付かなくなったその場所に、神に仕えていたという鬼の妖怪がいた


「お前…まだいたのか」

「はい、また竜二さんが来て下さると分かっていましたから」

「………」


自分に嘘偽りのないように微笑んだ彼女に竜二は吐き気を覚えた


「俺が何しに此処へ来たか…分かってんだろ?」

「えぇもちろん」


殺気を孕んだ視線を投げつけ問いかけてみるも、彼女に表立った感情の揺れは感じない

それが竜二をより一層腹立たせた


「どうあっても私が妖怪で貴方が陰陽師という事実は変わらない。ならば私は、現実を…有りの儘を受け入れるしかないではありませんか」


目の前で完全なる死を受け入れている女の妖はそう言うとゆっくり目を閉じた


「私には人を怖がらせることも畏れさせることも、ましてや喰らうことも出来ないのです。弱く小さな妖です。それは竜二さんもよく知っていることでしょう?」


私は無力な妖だと自分を蔑む姿勢に竜二はさらに複雑な心境になる

滅される事にこうも無抵抗な妖怪は初めてで逆に躊躇う…なんて事は流石にないが、たとえどんなに人に無害であっても滅さなければならない事への疑問。

こんな事を思うようになったのは奴良組のヤツらに出会ってからだ

そう思うと胸の内から何やら気に食わない感情がフツフツと湧き上がってくる


「優しいんですね」

「あ?」

「竜二さんはいい人ですよ」


どこから来た根拠があって言ったのか、竜二は眉間をこれでもかと寄せて舌打ちを一つ零した


「俺はだな、今からお前を」

「…だからこそ、」

甘さと優しさを間違えないで下さいね


覚悟を決めたようなスッキリとした表情の中に意志の強い凛々しい視線を以て、戸惑っていた竜二の心に自分を滅するよう促した


「……悪いな」

「いえ」



廻向

(私は十分永く生きたから、貴方の寿を願います)


20120211



▼あとがきという名の補足

すっっごく分かり難いけど、ヒロインが「妖怪を逃がした竜二が花開院の汚名をきて死ぬ」という予定運命を自分の命と引き換えに変えた…ということを仄めかして書きたかったんです。ごめんなさい



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