ないまぜ。 | ナノ
(ねぇ、痛イよ…冷タイよ…)
身体中を点々と打っては流れるように滑っていく、冷たい感触で私の意識はなだらかに浮上した
白く微睡む景色はいつしか鮮明な色を付け形を成し
意識とは裏腹に、何かに引かれるように身体は動くようになって、立ち上がり視線を自分に向ければ自分のカタチが本来の自分でないことに気が付き驚いた
「にん…げ…ん」
それは確かによく知るモノのカタチではあったが、何故自分がそうなっているのかは…醒めきらない意識の中ではただ茫然と今の現状を受け入れる他なかった
が、やはり分からないもので
私は人を装飾する物であり、ただの青い綱玉であり、つまりはサファイアと呼ばれる石ころであったはずなのに
それが何故…こうしてヒトの形を成しているのだろうか
「そこのお前、ここら辺では見掛けないヤツだな」
「ダレ?」
「…新入りか」
「ナニ?」
質問の意図を理解できずに話の噛み合わない言葉を返せば、ソレは次第に顔を曇らせていった
「名は?」
「ナ?」
ソレの言う名とはなんだろう?
銘のようなものだろうか?
「ついて来い」
私が何も答えられないと分かるや否や、ソレはどこか諦めたような表情をチラリと垣間見せ、つい反射で恐縮してしまった私の腕を掴み、グイッと腕の中に引き入れた
その衝撃で一瞬呆気にとられるも幾らか反論しようとすれば、此方が口を開く前に背にある黒い羽で空を舞っていて……
「お前を一度保護する」
私に一言の有無も言わせず辿り着いた場所は、周りとは少し違った…趣深い屋敷だった
「おお黒羽丸、今帰ったか」
「親父殿、道端に新入りかと思われる妖怪がいたのですが…」
「その娘は」
「まだ成り立てのようで、自分が何者なのか、いまいち理解できていないらしく保護してきました」
「そうか、ならば総大将には私から伝えておこう」
自分のことであるはずなのに、話の筋が全く見えない話を頭上でされていい気分でいられる筈もなく
交わされる口話に心のどこかで不愉快なものを感じていた
けれど状況を掴めていない内は話に割って入ることも出来ずに歯痒い思いを募らせるだけ
「こっちだ」
腕の中から下ろされた私はただ頷いて黒羽丸と呼ばれる者について行くしか、選択はなかった
魅了
(…貴女を拾ったのは気まぐれ)
20120208
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