祐希が寂しがる



君僕。



「なまえー」

幼なじみの彼は、小さな頃から甘え上手だった。双子の兄がしっかり者だから、自分で何かをやるということを嫌い頼ることばかりしていたようだ。そしてその矛先はずっと一緒に遊んでいた私にも当然のように向き、宿題はもちろん反省文すら私に頼むようになってしまった。甘やかした私も悪いと思うけど、彼は限度ってやつをしらないのだろうか。

「ねえなまえ」
「なに 今宿題やってる」
「あ、じゃあついでに」
「祐希のはやらない」
「…けーち」
「…教えてあげるから自分でやりなさい」
「つまんないからやだ」
「悠太に言う」
「知らない」
「…後でちゃんと話聞くから、今宿題終わらせちゃおうよ」
「…じゃあ終わったら、俺ん家行こう」
「別に良いけど…」
「宿題持ってくる」

言うとすぐに部屋を出て階段を駆け降りて行った。やる気を出せばなんだって出来るんだからやれば良いのに…。ていうか隣の家なのにわざわざ移動する意味はあるの?良いと言ったからには行かないと彼はまた機嫌を損ねるだろう。それは結局私と悠太が宥めないといけないのだから、言うことを聞いたほうが無駄な労力を使わずに済む。頭のなかで組み立てた計画に頷き再び問題集に目を向けた。

「なまえ」
「え、なんで悠太」
「…声だけで分かるの?」
「そりゃこんだけ一緒にいればね で、どうしたの?」

顔を上げるとやはりそこには悠太の姿。後ろからひょこっと顔を出している祐希もいた。なんでお兄ちゃんを呼んできたんだい弟クン。

「悠太にも教えてもらおうかと思って」
「…そう じゃあ早く勉強始めて」
「お邪魔します」

なんでここで勉強会始まってんだろう。まあ悠太は頭良いから私も教えてもらえば良いか。祐希はやらないだけで本当はできるからそんなに教えるのに時間はかからない。この三人での勉強会は実はものすごくはかどるんだ。

「悠太、ここってどうやんの?」
「ん?…あー、これ この公式使って」
「……お、できた ありがとう」
「どういたしまして なまえ、この女の子の思ってること30字以内で答えて」
「それ昨日やった はい、これ見といて」
「ありがとう」
「いいえ」
「……つまんない」
「「え?」」
「悠太ばっかなまえと話してる」
「…祐希くん、これはなまえと勉強の質問しあってるだけでしょ」
「祐希もわかんないとこあったら聞いて良いんだよ?」
「やだ、つまんない 質問でも話さないで」
「…俺、忘れ物したから取ってくる どこに置いたかわかんないから30分くらい戻れないかも」
「え、ちょ、悠太…」
「後はよろしく」

逃げ出しましたよあのお兄ちゃん。ふてくされた祐希と残されて、私がすることは半年前から一つだった。祐希の隣に近づいて、指先を掴む。すぐに祐希は手を掴んで、そのまま私を抱きしめた。顔を肩に埋めたまま"俺とも話してよ"って。この子はなんでこんな寂しがりやなんでしょう。背中に腕を回して何も言わずに力を強めると、祐希もさらに強く抱きしめてきた。お兄ちゃんがいなくなった途端にこれなのに、よく悠太がいる間我慢できるよなあ、と人事のように思う。安心してよ、私が大好きな彼氏はわがままで寂しがりやな祐希だからさ。



君が、寂しがる

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