ぼくの世界は、今日も平和です

確実に惹かれていた。会う度に良いところを知って、声を聴く度に想いが積もった。だからもう吹っ切れようかと思うの。我慢するのは得意だけど、こういうのに我慢なんか必要ないでしょ?甘えさせてくれる人にはうんと甘えたい性格なんだもん。年上って言ったってまだまだ子供。

でもね?直接伝えられるような勇気は持ち合わせてないんだ。なんだかんだ言ったって…そういうのはすぐできるようになることでもないし。だからこれは一種の賭け事で。理解してくれなくても会話に繋がればそれで良い、なんて弱気過ぎる本音も隠れてるんだけどね。

「篠宮さんっ」
「久しぶり菊丸くん 元気だった、よね?」
「うん!超元気!篠宮さんに会えるから今日はもっと元気!」
「良かった あのね、今日行きたいところがあるんだけど…」
「どこ?篠宮さんが好きなところ行こう、楽しそうな篠宮さん見てたら俺も楽しいもん」
「…ぷ、プラネタリウム、とか」
「プラネタリウム!!」

目をキラキラと輝かせる菊丸くんは笑顔で頷いてくれた。良かった。プラネタリウムなら時間がかかるから帰りの時間もちょうど良いし、雰囲気もおかしくない。

今まで菊丸くんに任せきりで私がどこかに行きたいと言ったことはなかった。だから提案するのは少し不安だったけれど、菊丸くんも好きみたいだから安心した。

「篠宮さん星好きなの?」
「あ、…うん 空見るの好きだし」
「ああそっか そうだね」
「…?」
「雨の日好きでしょ?で、雨上がりの晴れた日も好き よく空見上げて雲とか見てなかった?」
「よ、よく見てるね…」
「だって篠宮さんだし!」

ニコッと笑った菊丸くん。そんなに見られていたなんて思いもしなかった。空を見上げるのも、無意識の癖になっちゃってるし。夜会ったことはないけれど、電話で話したことはあるから菊丸くんがある程度星座を知っているのは分かってた。電話越しに空を見ながら会話なんて、マンガみたいなこともしている。



プラネタリウムから出ると菊丸くんは空を見上げ残念そうな声を出した。東京は星が少ないって、きっとプラネタリウム見た後じゃないと気がつかないんだろうな。

でも、今日は星は少なくても良い。ちょっと欠けた月が優しい光を放っていた。…勇気、出す。

「菊丸くん」
「ん?なに?」
「…月が、綺麗ですね」
「……う、ん」
「それだけ じゃあまたね!」
「えっ あ…」

ぴったりなタイミングで家に着いたからそのまま逃げるように駆け込んだ。どっちだ。今のは、どっちだ。私が急に変なこと言い出したから戸惑っていた"間"なのか、意味を知っているからこその"間"なのか。ダメだよ、なんで逃げたの私…。

脱力してドアに身体を預けてしゃがみ込むと、鞄に入れていた携帯が震えた。少しの間放っておくと止まったからメールだ。自分のヘタレさにため息をつきながら携帯を開くと、一瞬息が止まってしまった。菊丸くんからだ。いつも会った後にはメールがくるけれど、それは別れてから30分後くらいで。私が落ち着いた頃を見計らったように届くものだった。こんなすぐにメールが来たのは初めてで、なんだか緊張しながらメールを開いた。

「っ…」

《篠宮さんへ
 ねえ、さっきのは本気で受
 け取って良いの?

 ただ月が綺麗だなーって思
 っただけならごめんね

 …俺は、死んでも良いよ》

伝わった、繋がった。思いがけない返事に涙が零れるのを止められなかった。今ドアを開けたら君はそこにいるの?受け止めてもらえるの?でも、こんなぐちゃぐちゃな顔見られたくないからやっぱり抱きしめるのは今度にするね。震える手で短いメールを打った。

《菊丸くんへ
 菊丸くんと一緒だと、月は
 もっと綺麗に見えるよ》

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