月の泪で転んだ少年

水溜まりには波紋が拡がり続けていた。


 scene.1


昨夜から降り続けている雨は気分を害するだけで止まらずに部活の邪魔さえもした。多くの運動部の場所取り合戦の末、俺達テニス部は自主トレと言う名の休みとなった。でもテニス馬鹿が集まった部活だから練習の休みを喜ぶ奴もレギュラーにはいなくて、数人はまとまって屋内テニスコートのある施設へと足を運んでいた。その数人から外れた人は、まず乾。データがなんとかかんとか…よく分からないけれど足早に帰って行ってしまった。次にタカさん。どうせ休みなら家の手伝いでもしようかな、なんて何%が優しさでできてるのか調べたくなるくらいの良い笑顔で走って行った。あとは、俺と桃とおちび。夕方には止みそうだからそれまで時間を潰そうか、という言い訳と共にファストフード店でたむろするのがお約束。それで俺の財布が軽くなるのも、いらないお約束。あいつらはお金持ってても奢らせるんだ。先輩なんて良いことないよ。

「あ、雨弱くなってきましたね」
「んー じゃあそろそろ行くか」
「…お前ら容赦なく食べやがってぇ」

ニコニコ笑ってるのは人のお金でたらふく食べて満足したからだろう。恨めしげに見ても背中に目の付いていない二人には分からない。ため息をつきながら小銭の残った財布を鞄にしまい、そこにあるはずのものがないことに気がついた。…弁当箱。昼休みが終わって教室戻って、ロッカーに教科書を取りに行った時に入れてしまったのかもしれない。いや、絶対そうだ。

「ごめん、俺一回学校戻る」
「え?忘れ物っスか」
「そ 弁当箱置いてきちゃった」
「あー じゃあ先に越前の家行ってますよ?」
「ほいほい んじゃ後で」
「へーい」

二人と別れて来た道を走って戻る。小雨になっていたし走るのに邪魔だから傘は閉じていた。ファストフード店から学校は遠くないのですぐに校門が見えてきて、少し速度を緩めた。
校内には練習場所を勝ち取った部の声が響いていた。ロッカーから取り出したお弁当を手に来た道を戻る。明日は晴れかもしれない。雨が上がった空は綺麗な夕焼けが広がっていた。

「うっ…わ」

…セーフ。水溜まりにはまるところだった。今は空ばっかり見ていたら危険だね。さっきより速度を緩めて足元にも注意しながら歩き始め、けれどそれはすぐに終わった。空に見えた大きな虹。夕暮れの虹は初めて見た。楽しくなってまた足元が留守になったところに、水溜まりはやってきた。
びちゃん、という音を聞いて足を止めても時すでに遅く、片足が濡れていた。この間買ったばかりの靴も明日はお古と交代だ。一気に下がった気分と共におちびの家に向かった。

「あっ…!」
「へ?」

声の聞こえた方を見るとワンピースを着た女の子が水溜まりに片足を浸けていた。…さっきの俺みたいだ。思わず噴き出すと女の子も俺に気づいたようでこっちをみて困ったように笑った。うわ、足元しか見てなかったけど、すげー可愛い。はにかんだような赤い顔はきっと恥ずかしいからだろう。水溜まりから出て靴を気にしている女の子へ近づき、使わなかったタオルを出した。

「え?」
「良かったらどうぞ 使ってないので綺麗ですよ」
「あ、えっと…大丈夫です」
「…そうですか?」
「ありがとうございます」

嬉しそうに笑った女の子は綺麗にお辞儀をして歩いて行ってしまった。数秒放心状態から抜け出せず、反対側から自転車が走ってきてやっと意識がしっかりした。なんだろう、ちょっと頬があったかいかも…。動き出した足はさっきよりも速い気がした。

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