微暖湯 | ナノ

アメンボは赤くない。



「ちょっとイタリア行ってきて」

急ですね、別に良いですけど。イタリアってなんでだろう。私は任務とかできないですが大丈夫ですか。真っ直ぐに沢田さんを見ると少し眉を下げながら「その目には弱いんだよなぁ」と笑ってきた。どの目でしょう。

「大丈夫、危険な任務じゃないよ ディーノさんの屋敷が調子悪いらしくてさ」
「え、屋敷全部ですか」
「うん だから歩と正一くんで行ってもらおうかなって」
「スパナさん希望」
「正一く」
「スパナさん希望」
「正」
「スパナさん」
「…スパナに頼んでみるよ」
「っし」

入江さんと二人でイタリアとかどんな拷問ですか。行きも帰りも向こうでも一緒なんでしょ。ありえないありえないありえない。ディーノさんには会いたいけど。結局沢田さんの判断でスパナさんと行くことになった。佐藤さんはまだディーノさんに会ったことがないから今回はパスらしい。そりゃ知らない人の家をどうもできないよね。

「えーと…荷物これだけかな」

旅行行く前って荷物の少なさに毎回不安になる。着替えを三日分だけ持ってくれば良いだなんて。持って来なくても適当に見繕うから大丈夫だなんて。さすがにそこまでお世話になるわけにいかないのでちゃんと持っていくけれど。あとたくさんのお菓子。向こうにもケーキとかはあると思うけど駄菓子はないでしょ。スパナさんといつもお菓子を食べながら話してるからお菓子は忘れられない。

「水島さん、出る前に工房の荷物片して行ってほしいんだけど」
「あ、すみません 今行きます」
「…荷物少ないね」
「最後に"女子なのに"が付かなかったから許します 佐藤さんはかばん一つで行けそうですね」
「いや、俺はちゃんと荷物持っていくよ」
「私だっていつもは持って行きますー」

工房までの廊下でディーノさんの説明をすると今回荷物が少ない理由も理解してくれて良かった。でも言うほど少なくないと思うんだけど。佐藤さんの方が絶対荷物少なくて済むと思うんだけど。佐藤さんがどんな人なのかよく分からないけど、最初から今でイメージが二転三転してる気がする。不良かと思ったら優しいし、大人しいかと思ったら適当なだけだし。これは後一ヶ月はないと理解できない。

「あ」
「え?」
「俺骸さんに呼ばれてたんだ …じゃ、いってらっしゃい?」
「なんで疑問形なんですか …多分行くときは会わないですよね じゃ、いってきます」

ヒラッと手を振って行ってしまって、骸さんと仲良いとかやっぱり理解できないなと思った。