微暖湯 | ナノ

つまずいても痛くない。



「歩、朝ごはん食べた?」
「えっ、沢田さんいつの間に…!」
「ずっといた」
「こわっ!」
「…無理して笑う歩は嫌いだな」
「…そうですね 今はちょっと、笑えないです」
「談話室行く?スパナいたけど」
「沢田さん、一緒にいてもらって良いですか…?」
「もちろん」

私の隣に座った沢田さんは何も聞かずに手を繋いでくれた。人と触れ合うのは苦手だけれど、今はこの手を離したくなかった。

「歩ってびっくりすることあると動かなくなるよね」
「…そうですか?別に、動きますけど」

そう言い沢田さんに繋がれている手にぎゅっと力を入れると、同じくらいの力で握り返しながら沢田さんは言った。「頭がってこと」…頭?考えることも、できますよ?今だって普通に頭の中で考えてる。ていうか頭の中の動き分かるんですか?あ、超直感ってやつか。

「まあそれもあるけど 直感がなくても見てれば分かるよ、歩の考えてることなら」
「見て、分かるんですか?人の考えが?」
「いや だいたいだよ?雰囲気っていうか、こうしたいのかなーって感じとか ほら、俺歩のこと大好きだから」
「…うるさいイケメン」
「ありがとう」

サラッとそういうこと言う辺りが本当に…。赤くなりかけた顔を膝に埋めて隠した。繋がれている手から熱が伝わって身体全体がポカポカと温かい。しばらく話さずにいると兄のセリフをやっと飲み込めた気がする。兄も私に優しさをくれる人だから、大事に考えたいんだ。後悔することをしたくない。

「沢田さん、私って頼りないですか?」
「頼りなかったら、スパナと二人で外国の任務なんか任せられないよ」
「…でも女だし子供だし、色々とめんどくさいでしょ」
「歩は女で子供だとめんどくさいの?京子ちゃんやクロームはめんどくさい?ランボやイーピンはめんどくさい?…そんなこと、ないだろ 歩も大切なファミリーの一人だよ」
「……ありがとう、ございます」
「うん だからネガティブスイッチは切って、ちゃんとアイツのこと考えてあげて 歩が出した結論を無駄にはしないから」

頭をぽんぽん叩いて、沢田さんは立ち上がった。離された手が外気に当たって冷える。…だから触れ合うのは嫌なんだ。いつかは離さなければいけないから。好きだから、触れるのが怖い。