微暖湯 | ナノ

転がり回る。



「歩、準備できた?」
「うん、オッケー」
「じゃあ父さんに挨拶してきな、外で待ってる」
「はーい」

結局兄は私が帰る月曜も有休を取って送ってくれることになった。仕事がある父に挨拶できるように早朝の出発だから、わざわざ休まなくても会社に行けたんじゃないかと思うんだけど。まあ送ってくれるのはありがたいし嬉しいからつっこまずにおこう。

「お父さーん また、行ってきます!」
「…ああ いってらっしゃい 気をつけてな」
「うん!またね」
「また」

優しく笑ってくれたお父さんに手を振り玄関へ走った。ちょっと、ちょっとだけ、照れ臭かった。にやける口元を隠すように俯いていたら兄に心配された。過保護だなあ本当に。



アジトに着くなり沢田さんのところに連れて行ってと言う兄、談話室を覗いてから執務室へ行った。ちなみに談話室では佐藤さんが山本さんと話をしていた。どうやら新しい武器を作るらしい。仲間に入れて。

「あ、おかえり歩 どうして水島もいるの?」
「お前に話があるからだよ、沢田」
「ああ、じゃあ私は部屋に荷物置いてきます」
「分かった 終わったら呼びに行くから後で報告ね」
「はぁーい」
「歩、帰りちょっと話せる?」
「ん?うん、じゃ後でね」

雑誌に載っていそうな二人組を置いて部屋に戻った。実家の部屋より物が散らかっていて狭いけれど住めば都で結構気に入っているのだ。久しぶりに自分のベッドに飛び込めば柔らかい匂いに眠気を誘われた。京子さん、天日干ししてくれたんですね。太陽の香りなんてわからないけれど、急にやってきた睡魔はこの匂いが大好きらしい。抵抗することなく瞼を閉じて、意識はすぐになくなった。



「歩」

聞き慣れた声にゆっくりと目を開けると兄がいた。まだ覚醒していないためボーっと見つめて、照れた兄が顔を逸らしたところでやっと目が醒めた。

「ああ、話あるんだっけ ごめんね」
「ううん 大丈夫?」
「うん 今何時?」
「9時 沢田が話終わったらさっきの部屋来いって」

言うなり視線を下げた兄。話って、深刻な感じかな?口角を上げて意識して優しい声を出した。

「どうかした?」
「…歩、怒るかもしれないんだけど」
「うん?」
「俺、…ボンゴレ入りたい」
「…え?」

予期せぬ言葉に驚愕していると、言い訳をするように話を始めた兄。ちょっと待ってよ、だって仕事あるじゃん。血見ただけで具合悪くなるし、入江さん達のような技術もないし。それに、お父さんが、一人になっちゃう。訳が分からなくて混乱する私を見て、兄はいつも通り優しく笑った。

「ごめん、また今度にする」
「…うん ごめん」
「じゃあ今日はこれで」
「うん …またね」
「…また」

見送ることもできずしばし呆然としていた。