微暖湯 | ナノ

夜は過ぎる。



DVD見ようって話になったところまでは良かった。でもホラー映画だなんて聞いてない。パッケージを見て固まった私にそれはそれは優しそうな笑顔を見せた兄の本性はただのドSだと思う。知っていた、私以外には普段からSだ。でもシスコンだから私には優しいお兄ちゃんでいてくれると信じていたよ…!?引き攣った笑みのまま動かない私の手を引き大画面テレビ前のソファーに座らせた兄はDVD再生の準備を始めた。

「お、お兄ちゃん…!」
「ん?どうかした?」
「布団持ってきて良い!?」
「…暑くない?」
「寒い!」

パッケージだけでビビっていた私は二階の部屋に行くのも怖かったけれど、兄に一緒に来てと言うのも嫌だったので猛ダッシュで行った。バタバタと階段を駆け降りていると背後の暗闇から誰かが追ってきそうで、そんな無駄な妄想に更に怖がって。リビングについてすぐ布団を被って兄の側に寄った。

「…歩」
「な、なんでもない!」
「そんなに嫌ならやめるよ?」
「でもお兄ちゃん見たいでしょ」
「…歩が見たくないのに一緒に見てもつまんないし」
「見るから!つまんなくない!」

お兄ちゃんはわがまま言わな過ぎ!私が少し我慢すれば良いなら安いもんだよ。再生が始まったテレビ画面を兄の腕にしがみつきながら睨みつけた。



「…無理しなくて良かったのに」
「むむむむむりしてないです」
「ふっ ごめんね、ありがとう」
「…楽しかった?」
「え?ガタガタ震えて叫び声我慢する歩を見るのならすごい面白かったよ?」
「ばか!」
「嘘嘘 すごい楽しかった」
「…なら、良かった」

一人で寝るのは怖いから私の部屋に兄の布団も持ってきて隣に寝転がった。心持ち兄寄りなところに似ているのは気のせいじゃないよ。怖いんだよ。あ、安心してください私達はいたって普通の、血が繋がっていないだけの兄妹です。間違いとか起きないので。ぎゅっと繋いだ手はそのまま眠りにつこうとした私に兄はゆっくり話しかけた。

「ボンゴレでの生活は楽しい?」
「うん みんな優しいから甘えてばっかりだけど」
「沢田に意地悪されてない?」
「うーん、むちゃぶりはされるけど…意地悪って言うか試されてる感じ」
「…怪我、してない?」
「この通りだよ」
「嫌になったら帰ってきて良いんだから、ね…?」
「まだ、大丈夫 もっと頑張りたいんだ」
「…歩が決めたことなら反対はしないよ 俺も親父も」
「…うん ありがとう」

握り返された手からは優しさだけが溢れていた。