微暖湯 | ナノ

血の繋がりは必要ですか。



「ただいま!」
「…歩?」
「あ、水島 久しぶり」
「…は?沢田…?」

ピシッと手を伸ばし玄関に立つ兄を見ると、面白いくらい驚いていた。沢田さんの登場にもびっくりしたみたいで目を大きく見開いて動けなくなっている。我が兄ながら可愛い。兄と言っても血は繋がっていないので私とは全く似ていないんだ。しかも美人なお母さん似なようで、かっこいいお父さんとは正反対の中性的な顔立ち。私より可愛いんじゃないのか。もう20代のくせに…。

「…本当に歩?」
「うん 里帰り、しにきました」
「俺はその付き添い 相変わらず可愛い顔してるね」
「殴るよ沢田 …おかえり、元気?」
「うん お兄ちゃんも元気?」
「…久しぶりに歩の"お兄ちゃん"を聞けて死にそうなくらい幸せ」
「相変わらずのシスコン」
「黙れ沢田」
「…じゃあ俺は戻るね 来週迎えにくる」
「俺送っていくよ?」
「あ、本当?…良い?歩」
「はい!」
「うん、じゃあまた」

沢田さんが閉じたドアの音がやけに響いた。アジトと比べると小さいなぁこの家。久しぶりに感じた家の雰囲気は私が出ていった時とほとんど変わっていなかった。兄と真っ直ぐ目を合わせると、照れたように顔を背けられた。

「…私の部屋ってまだ使えるかな?」
「うん …父さんがよく掃除してたから、綺麗だと思う」
「…お父さん、帰り遅い?」
「今日は10時くらいだよ ね、ご飯作って?」
「…お兄ちゃんの方が料理上手じゃん」
「歩の作ったものが食べたいんだよ」
「む… じゃあ手伝ってよ?」
「うん」

にこっと笑って私の荷物を奪った兄はそれを二階の私の部屋に置いてきたようだ。すぐに戻ってきて今度は私の手を取りリビングへ歩き出した背中が、家を出た時より大きくなっている気がした。

約束通り兄に手伝ってもらい三人分のシチューを作った。包丁を使う私をハラハラしながら見る兄がウザったかったので切るものを全て押し付けたのは多少悪いと思ってる。無駄に飾り切りされて見た目華やかなシチューになったがまあ良いだろう。無事完成したシチューはご飯にかける派の私とパンにつける派の兄がおいしくいただいた。お父さんの分は取り分けてある。

「歩、明日は用事ない?」
「うん 家でのんびりしてるよ」
「じゃあ夜DVD見ない?」
「お兄ちゃん、明日仕事休み?」
「有休もらっちゃった」
「…明日だけだよ?私いてもちゃんと仕事行ってよ?」
「えー」
「わがまま言わないの 仕事帰ってきてからいろいろすれば良いじゃん」
「…はーい」

ぷくーっと頬を膨らませる兄はムカつくくらいに可愛かった。