微暖湯 | ナノ

近所の故郷。



一日中沢田さんと遊び回るのは初めてだったが予想を超える楽しさだった。まさかあんなに…いや、思い出すとまた遊びたくなってしまうから思い出にしておこう。大人になったら思い返そう。
時間は過ぎて夏休み。学校に行く必要がなくなった私は工房に篭るか部屋に篭るかの生活になった。ニート?はっ、なんとでも呼ぶが良い!スパナさんと話せればそれで一日が幸せなんだ!安い人間とは呼ばせない。スパナさんと話すことは人生の幸福だからね。さあてそろそろ宗教じみた話は区切ろうか。

「あ」
「あ?」
「歩、任務」
「え、またデートですか」
「それはまた今度にしよう 今回は歩にしかできない任務」
「デートは私以外でもできる…と なるほど京子さんですね」
「うわぁあ…ごめん言い方間違えた 俺は歩としかデートしたくない」

この人真顔で何言ってるの。多少呆れの入った目で見てあげると困ったように笑った沢田さん。うーん、なんか私も困るんだが。

「で、任務って?」
「お盆だからさ、里帰りしなよ」
「…え」
「俺は付いて行けないけど、誰か一緒に行かせるし」
「里帰りって…家に、ですか?」
「うん お父さんとはちゃんと仲直りしたんだろ」
「…はい」
「あいつにも久しぶりに会ってきたら?ちゃんとやり取りはしてる?」
「メールは少し …え、本当に帰るんですか?」
「嫌?」
「そういうわけでは…」

里帰り…か。家族が嫌いなわけではない。むしろ大好きだ。家も好きだし、近所だからすぐ帰れる。里帰りってほど大袈裟なものじゃない。

でも、私はここにいたい。一生帰らないなんて無理だと思うけど、まだ帰りたくない。

「お願い歩」
「でも…」
「じゃあ、命令 帰って」
「…ばか」
「ちゃんと会って話して、笑って戻ってきて」
「…分かりましたよ!!」
「…ありがと」

笑った沢田さんの頭を軽く叩く。ボスに命令されたら聞かないわけにはいかないじゃないか。ボスの頭を叩いた件についてはよくあることだから触れずにおきましょう。家に帰る準備のために今日一日休みをいただいた。どうせ持っていくものなんて着替えくらいだ。

「あ、夜までに誰と行きたいか決めておいて あいつと反りが合う人なんてなかなかいないかもしれないけど」
「…沢田さんは?」
「うーん……キャバッローネの皆さんと食事の予定なんだけど」
「そうですか…」
「…行き帰りだけでも一緒に行こうかな」
「本当ですか!?」
「うん 久しぶりにあいつとも会いたいし」
「やった…へへ」
「………」

俯いて黙り込んでしまった沢田さんがどんな顔をしてるかなんて気づかないまま、私は執務室を出た。ていうか、道中沢田さんが一緒なら他の方を連れていかなくても良いのでは…。