微暖湯 | ナノ

上を向いて歩こう。



地に足がついた時の安心感とは素晴らしいものですね。大きく伸びをし固まった身体をほぐす。隣ではスパナさんがふらふらと今にも倒れそうだった。行きより短いにせよ、私の恐怖心を無くすためにずっと話し続けていたから眠いのもしょうがないかもしれない。少し悪いと思うけれど私にはどうしようもない。せめて基地に着くまでと、手を引いて歩き出した。

「…ねむい」
「あとちょっとですよ」
「んー…」

今にも目を閉じそうなスパナさんは私の手をしっかり握ってポテポテと歩いている。ああ、この温もりを忘れるな私!忘れられないよ。やっと歩ききり玄関の扉へ手をかける、しかし開ける前に勝手にドアが開いた。いつから自動ドアになったんですか?と冗談半分に思いつつ中を見ると佐藤さんが立っていた。…まさか佐藤さんが私達のために?いやいや、そんなはずないですよね。多分これから出かけるんですよね。

「おかえりなさい」
「…ただいまです」
「何その目」
「いや、幻覚じゃないよなーと」
「実物だけど」
「ですよねー」

ドアを開けきり端に寄った佐藤さん。まさか私に入りなさいとおっしゃるのですか、ええー佐藤さんが優しい怖いー。だけどきっとレディーファーストなんでしょう。ここは彼に甘えることにします。ごちゃごちゃ考えつつも表情は変えず扉を通った。スパナさんもちゃんとついて来ている。

「…もう、無理」
「え?うっ、わ…」
「……大丈夫?」
「そこは助けてくださいよ!」

スパナさんがアジトの中に入った途端に限界がきたのか眠りについてしまった。え、え、ここで?とか、そんなこと考える隙もなく私の方に倒れ込んできて、ぎりぎりで振り向いた私はスパナさんを正面から抱きとめた。実際は抱きとめたなんて可愛らしいものじゃなく押し潰されそうだけどね!なんで佐藤さんは見てたのに助けてくれなかったのかな!ここでS発揮しなくて良いですよ!!

「はい これで良いでしょ」
「なんで上から目線… まあ、ありがとうございます」

意外と力持ちらしい佐藤さんはスパナさんを背負い談話室の方へ歩き出した。私も後ろについて歩き、スパナさんが落ちないように見張る。
談話室には沢田さんを始めボンゴレ幹部…というか守護者?の皆さんが勢揃い。あ、そういえば今日はボンゴレの創立記念日だから仕事休みなんだっけ。9代目はせっかくだからと毎年パーティーをしていたらしい。しかし沢田さんは"休みは休まなきゃ、ね?"を皮切りにどんどん言葉を紡ぎ五月蝿いおじ様達を刃向かえないように丸め込んだらしい。これこそボンゴレ10代目、素敵です…!

「おかえり歩」
「…ただいま帰りましたっ!」

みんなのいる明るい場所に足を踏み入れた。