「ねえ」
「なんじゃなまえちゃん」
「お昼ご飯どうする?食材あるから何か作れるし、インスタントもあるけど」
「んー…、お腹空いてないき俺は良い」
「仁王くんご飯食べなさすぎ…」
「お腹空いてる時はちゃんと食うよ」
「…じゃ、適当にご飯食べてくる のんびりしてて」
「おー」

文化部に属する私は動き回るのが得意じゃないインドア派で、テニス部に属する仁王くんは動き回るのが得意なくせに動きたがらないインドア派。デートと言ってもほとんどどちらかの家で一日過ごすだけ。若い二人がこんなんで大丈夫かと時々思うけれど、やっぱり遊園地とか水族館とかは私たちには合わない気がする。

焼きそばの麺を見つけて、適当に野菜を放り込んでお昼ご飯にした。仁王くんほどじゃないけど私も少食だから、半分を食べて残りは冷蔵庫にしまう。部屋に戻ろうとして、仁王くんが好きなお菓子があったことを思い出してジュースとともに持って行った。

「ただいま」
「ん、おかえり …あ」
「仁王くんこれ好きだったよね?食べるでしょ?」
「…そんなこと言ったかの?」
「コンビニでいつも買ってるの見てたから」
「あー そういえばなまえちゃんは人間観察が得意じゃった」
「人間観察の中でも特に仁王雅治観察がね」
「…食う」
「漫画しまって」
「はーい」

いいお返事をしてから、のそのそと漫画を元の場所に戻した仁王くん。袋を開けて目の前に置くと少し嬉しそうな顔をして一つ口にした。私は仁王くんに食べ物をあげることが好きだ。確かに彼はあまりご飯を食べないけれど、食べる時は意外とたくさん、おいしそうに食べる。好きな人の笑顔はいくらでも見たいと思うのが女の子だろう。

「なまえちゃん、漫画読んでてええよ」
「今仁王くんのこと見る時間」
「…そんな時間いらんじゃろ」
「人生で一番大切な時間ですー」
「あっそ」

素っ気なく返事をした仁王くんは私と合っていた目線をそらしてお菓子を食べることに集中しようとしていた。だけど一度認識した人の視線は気になって仕方が無いもので、チラチラと私の目をのぞきこんでは眉を寄せて目を逸らすことを繰り返していた。

「…笑うな」
「笑ってないよ」
「鏡見てきんしゃい」

ため息をついてから、私の頬に手を伸ばしてふにっと引っ張る。優しい力でつねられれば余計に笑いが零れてしまって。笑った私を見て仁王くんもふわっと笑った。

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