空の向こう | ナノ

 5

学校が休みで部活も午前中だけだった日に、亮くんに誘われて街に出かけた。
ショッピングモールをふらふらと歩いて、休憩をするために喫茶店に入った。
飲み物を注文した後お手洗いに行くと席を立った亮くんは、注文したものが届いてしばらくしてからやっと戻ってきた。

「ごめん、混んでて遅くなっちゃった」
「ミルクティー冷めちゃうよ」
「そうだね …それ、何頼んだの?」
「ココア 飲む?」
「一口ちょうだい」

綺麗な仕草でカップをとり飲んだ後、ふわりと笑った顔に違和感を覚えた。
何が変、じゃなくて、何かが変。
確証のないものに眉根を寄せていれば、亮くんが首を傾げた。

「どうかした?」
「うん…、いや、なんでも、ない、…かな?」
「なにそれ」
「…ちょっと、私の名前呼んでみてくれない?」
「…、なまえ、ちゃん」
「え?」
「クスクス…やっぱり騙せないのかな」
「え?な、なに?」

急に笑い出した亮くんに焦ってキョロキョロと周りを見渡すと、店の入り口から亮くんが入ってきた。
って、え?亮くん?
目の前に座る亮くんとこっちに近づいてくる亮くんを交互に見ても、何がどうなっているのか全く分からない。
混乱して目に涙を浮かべた私の頭を撫でたのは、後から現れた亮くんだった。

「ごめん、いたずらしちゃった」
「亮くん…?」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、この亮くんは誰…?」
「弟の淳だよ 話したっけ?」
「あ、あああ、あつしくん…!?本物!?」
「うん、本物の淳だよ その反応、亮の言ってた通りなんだね」

再びクスクスと笑った、淳くん。
亮くんの言った通りって、どういうことだろう?
疑問が顔に出てしまったのか二人してクスクス笑った後、亮くんが「場所を変えよう、説明するよ」と言って淳くんの前に置かれていたミルクティーを一気に飲み干した。

ショッピングモールの端に入っていたカラオケに行くと歩き出した二人。いつの間にか髪が短くなっている淳くんに「やっぱりカツラだったの?」と聞けばにこっと微笑まれた。
答えてくれないのか。
カラオケに入ってソファに座る。
私の隣に座ろうとした淳くんを隅に追いやって亮くんが真ん中に座った。

「なまえが違う世界から来たってこと、淳に話したんだ」
「えっ …淳くんは、私のこと」
「知ってた やっぱり俺だけがなまえの存在を知らないみたいだね」
「そっか…」
「なまえちゃんと亮は、弟の目から見ても幸せそうだったよ 二人とも信頼しあって、支えあってる感じだった」

冷やかす風でもなくそう言い切った淳くんに、亮くんを見ると亮くんも私を見ていたようでバッチリ目が合う。
驚いて目を見開いた亮くんは慌てて私から視線をそらした。
私も同じように顔を背けると、それを見ていた淳くんがプッと噴き出して笑った。

「それ、二人がよくやってた しょっちゅう見つめあってるくせに、不意打ちで目が合うのに弱いんだよね」
「「見つめあってなんかない!」」
「ふっ、ちょっと、笑わせないでよ…!」

お腹を抱えて笑う淳くんは、全然知らない人みたいだった。
そういえば、六角の人たちもあんなに表情豊かだってこと知らなかったな。
思わす淳くんを見たまま動かずにいると、亮くんがパチンと私の目の前で手を叩いた。
猫騙しに大袈裟に驚くと、淳くんはそのやりとりを見てまた楽しそうに笑っていた。

そういえば、と帰り道に話し始めたのは淳くん。

「二人がすごい仲良かったって言ったけど、一つ言ってないことがあったんだ」
「え?なに?」
「ちょっと手貸してね」

そう言って私と亮くんの手を持つと、それを重ね合わせて上下から握った。

「よく手繋いでたの、知らないでしょ」

淳くんの手が離れてからも離れない私と亮くんの手のひら。
手に向けていた視線を上げれば亮くんが珍しく赤くなって私たちの繋がれた手を見ていた。

「亮くん」

私の声に反応してバッと顔を上げた亮くんは、眉を下げて恥ずかしそうに笑った。


back

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -