空の向こう | ナノ

 4

一日で友達の名前を覚え切れるはずもなく、必死に話についていってたら疲れて、私はふらっと教室を出てしまった。
いつ帰れるかも分からないんだからちゃんと慣れなきゃいけないのに。
隣のクラスを覗いて後ろ姿を見つけると、飛びつくように近づいた。

「亮くーん!」
「わ、なまえ…どうしたの?」
「ごめんね、迷惑かけたくないんだけど、やっぱり難しくて…」
「…ん、大丈夫だから、一回落ち着きな あと、周りの視線痛いから場所変えようか」
「え?…あっ、ご、ごめん」

亮くんしか見えてなかったけれど顔を上げればみんなにこにこと、いや、一部はにやにやと、私たちのことを見ている。
パッと亮くんの制服から手を離して俯くと、どこから出したのか帽子を私に被せてから頭を撫でて、優しい力で手を引いて歩き出した。
帽子は少し大きくて、私には足元しか見えない。
知らない人のことを考えなくて良いこの時間がとてもありがたかった。



「一度に覚えようとしなくていいよ まずは、よく話しかけてくれる人 顔はなんとなく覚えてきた?」
「クラスの中心っぽい人たちは多分… あと、お弁当一緒に食べるみたいな話してた子達が、仲良い子なんだと思う」
「ん、じゃあもう一回その子達の名前おさらいしようか」
「うん」

ありがとう、と涙ぐみながら言えば困ったように微笑まれた。
ああかっこいいなあ亮くん…。
名前の話をしていると後ろから「あっ!」と大きな声がして、振り返ればそこには虎次郎といっくんがいた。
私の奥に亮くんのことも見つけた虎次郎は、にやにやとしながら近づいてきて私のことを引っ張って亮くんから遠ざけた。

「いつもより距離近いね 亮のこと今までよりもっと好きになった?」
「なっ、なに言ってんの…!」
「お、顔赤くした 図星かぁ 妹の恋路を見るのは楽しいなー」
「うるさいよバカお兄ちゃん!もういいからあっち行って!」

ぐいぐいと虎次郎を押し返す。
いっくんこいつ連れてって!と言えばいっくんは笑いながら虎次郎を引き取ってくれた。
あのお兄ちゃんは全力で妹をからかいにきてるな…!ムカつくというより本当に恥ずかしくなるからやめてほしい!

「ごめんね、虎次郎が邪魔しちゃって」
「や、サエのことあんな風にできる女の子初めて見たから面白かった …顔赤いけど、なんか言われた?」
「ぅえ!?な、なんも、言われてないよ…!」
「そう?…俺とのことからかわれたのかと思ったんだけど、違うか」
「なんで分かったの!?」
「…やっぱりそうなんだ」

ため息をついた亮くんにどうして分かったのか聞いてみると、昨日から急に距離が近いと、朝虎次郎がわざわざ言いにきたらしい。
なんなんだあいつは!構いたがりか!
…というか、そんな、距離近いかな?
向こうでも男子女子関係なく結構この距離感だったんだけど…。
いや、まあ、亮くんには意識してちょっと近づいてるけどそれは周りへの不安とか亮くんへの信頼感とかそういうのであって…って、言い訳をしてもきっと虎次郎にはからかわれるんだろうなぁ。
んーっと唸りながら首を傾げれば、亮くんがよしよしと頭を撫でてくれた。
私が顔を赤くしているのにまた気がついた亮くんはからかうように笑った。

そんなことをしているうちに休み時間は終わってしまって、お互い教室に戻る。
さっきまで教室にいる間不安でいっぱいだったのに、今は自分のそんな気持ちが気にならなかった。
亮くんに名前を教えてもらった子に恐る恐る話しかけてみると笑顔で答えてくれて、心の中がほんわりあったかくなる。
亮くんがいれば怖いことなんて何もないなんて、根拠のない自信が浮かんだ。


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