空の向こう | ナノ

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海が見たいというなまえと一緒に海岸に来た。
なまえは海が見えた途端に駆け出して、砂浜に入る手前でうずうずと走るのを我慢しているようだった。

「海まで行きたい?」
「行きたい!」
「じゃあ靴脱いで行こう 向こうに水道あるから最後に洗えば大丈夫」
「本当!?」

キラキラと目を輝かせたなまえはすぐに靴を脱いで海に向かって走り出した。
俺も靴を脱いでのんびり歩いていく。
小さい頃からこの場所に住んでいれば、海はそんなに珍しいものでもない。
波打ち際で遊ぶなまえがよく見える位置で立ち止まって、潮風になびく髪を押さえつけた。
スカートが風で煽られているんだけど、彼女は気がついてなさそうだ。
足を海に入れてくるくると歩き回る姿は子供のようで可愛らしい。

「亮くん!」

急にそう叫んだなまえ。
声を出すのは面倒だったので首を傾げれば、一生懸命にまた叫んだ。

「ありがとー!」

なにに対してのありがとうなのか分からなかったけれど、笑っているなまえを見たらつい笑いが零れた。

「俺も、ありがと」

聞こえてないと思うけど。
一応声に出して言ってみた。
朝は急に現れたなまえに驚いて混乱していた。
だけどきっとなまえの方が訳が分からないことだらけで大変だ。
ずっと笑顔でいるから忘れてしまうけれど、彼女はここでたった一人なんだ。

水道で足を洗い、部活のために多めに持ってきていて使わなかったタオルを出せば、なまえはそれを全力で断ってきた。
どうするつもりかと聞けば、笑顔で石塀に座る。

「話してれば乾くよー!」
「…風邪引かないでね」

ため息をついて隣に座り、なまえに顔を向けると、話したいことがいっぱいあるらしくすぐに口を開いた。
なまえがいた世界の話や、一日こちらにいて感じたことなど。
俺が相槌を打つことが嬉しいのか、ホッとしたような笑顔を見せるのが可愛らしかった。


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