空の向こう | ナノ

 3

「じゃあ先に帰ってるね 遅くならないように」
「「え?」」
「また明日な 亮、なまえ」
「え、え?」

部活が終わり帰る時間になった。
みんな着替えて、私もスカートの下にはいていたジャージを脱ぐ。
部室の前で"よし、帰ろう"みたいな雰囲気になった時、私と亮くんに手を振ってみんなは先に歩いて行ってしまった。
なんで置いていかれてるの?

「もしかして、毎日二人で帰ってたのかな…?」
「そうみたいだな …じゃ、のんびり行こうか」

隣に立って歩き出すと、亮くんの髪が揺れていい匂いがした。
たくさん練習して汗もかいたのになぜ…。
じっと見ていると、どうかした?と聞かれて首を振る。
サラサラな髪が羨ましいなんて思ってませんとも。

「どこか寄り道する?」
「んー、あっ!海見たい!」
「おっけ じゃあこっちね」

角を曲がるとすぐに海が見えてきて、うわぁっと声をあげて駆ける。
夕日が沈み始めていて、朝とは違う美しさがあった。
橙色に染まる海は少し怖くて、だけどとても暖かそうだ。
砂浜に入る少し手前で止まっていると歩いてきた亮くんが隣に立った。

「海まで行きたい?」
「行きたい!」
「じゃあ靴脱いで行こう 向こうに水道あるから最後に洗えば大丈夫」
「本当!?」

亮くんの提案にのり、靴と靴下を脱いで砂浜に足を踏み入れた。
素足に感じる砂の感触が楽しくてどんどん歩いて濡れている場所まで行く。
水に触れると予想以上に冷たくて笑ってしまった。
足を水につけて遊んで、ふと振り向くと亮くんは少し遠くで風になびく髪を押さえていた。

「亮くん!」

波の音に消えないように大きな声を出すと、亮くんが笑って首を傾げた。

「ありがとー!」

いろいろ教えてくれて、知らない私を受け入れてくれて、海に連れてきてくれて、ありがとう。
いろんな気持ちを込めた感謝がうまく伝わったかはわからないけれど、これからもたくさん伝えれば良い。
亮くんが何かを言ったようだったけれど波の音で消されて口の動きが見えただけだった。
水の冷たさで体が冷えてきてしまったので足を海から出して亮くんの方に歩いて行く。
落ちていた貝殻をプレゼント、と言って渡すとクスクスと笑われた。

「ありがとう、大切にするよ」

水道こっちだよ、と歩き出してしまった亮くんの後ろで、立ち止まって頬を押さえる。
ずっと愛想笑いみたいな笑顔だったのに、急に本当の笑顔見せないでよ…。
振り向いた亮くんに、何か言われる前に駆け寄って軽く体をぶつける。
不思議そうな顔をする亮くんに「なんでもない!」と笑顔で言った。



足を洗ったら、亮くんがタオルを貸してくれようとしたので丁重にお断りした。
亮くんのタオルで私なんかの足を拭くなんて…ないから!
じゃあどうするの?と聞かれて石の塀の上に飛び乗る。

「話してれば乾くよー!」
「…風邪引かないでね」

亮くんはため息をついて私の隣に座った。


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