空の向こう | ナノ

 2

朝練が終わり学校生活が始まるとますます混乱することが増えた。
まず、友達の名前が分からない。
話しかけてくる子たちに適当な言葉を返すも、知らない人だらけの空間でストレスが溜まる一方。
休み時間にサエさんのところに行けば"珍しいね"と言われてギクリとする。
昼休み、逃げるようにひと気のない裏庭に行ってお弁当を食べていると、唯一私の事情を理解している亮くんが歩いているところを発見した。

「亮くーん!」
「えっ、なまえ?」
「ヘルプミー!どうすればいいのかわかんないよ!」
「弁当持ってくるからそこで待ってて」

一緒にいた友達に冷やかされつつ亮くんは行ってしまった。
わ、悪いことしたかな。
でも本当に困ってるんだ、甘く見て。
亮くんが来てから食べようと思いお弁当のフタを閉めて待機。

「お待たせ」
「ううん、ありがとう」
「どうしたの?」
「…分からないことしかなくて身動き取れない」
「…一個ずつ解決していこうか」

まず友達の名前。
これはほとんどの人が小学校から一緒だという亮くんに、携帯のデータフォルダに入っていた写真を見せて名前を教えてもらった。
それと、朝練で苦労したのが手伝いの仕事。
恐らくマネージャーのようなことをやっていたのだろうけれど運動部のマネージャーなんてやったことがないし、亮くんも全て自分達でやっていた記憶しかない。
マネージャーがやるだろうということを二人であげていき、そのやり方を教えてもらった。
そして、六角メンバーの性格を少し聞いて漫画との擦り合わせをした。
漫画では試合シーンがほとんどだからね…。

「あ、それと」
「ん?」
「…俺、なまえと付き合ってるっぽい」
「…ん?」

そっぽを向きながら言った亮くんの頬はほんのり赤く染まっていた。
どういうこと…?

「さっき一緒にいたやつらいるじゃん そいつらが、彼女とご飯かよ〜ラブラブだな〜…って 冗談かと思ったんだけどマジなようで」
「…マジなんですか」
「彼女どころか初めましてだよ…」

りょ、亮くんの、彼女…。
ふぅとため息をつく亮くんは、少し困っているようだった。
そりゃ、知らない女を彼女って言われてもね、困るよね。
ていうか、トリップって普通好きなキャラと仲良くして行って、告白とかのイベントがあって付き合うんじゃないの?
なんですでに付き合ってんの?

「と、とりあえず、様子見ながら、徐々に…」
「そうだね なまえも無理しないようにね 彼氏らしいから、なんかあったらすぐ頼って」
「…ありがとう」
「どういたしまして」

赤くなって俯いた私を見て亮くんはクスクスと笑っていた。
あーその笑い方は原作通り。
可愛いなあもう!



午後の授業を受けて掃除をして放課後。
朝練よりも長い部活動のために気合いを入れていると、サエさんに「どうしたの?」と首を傾げられた。
そういえば、サエさんのことなんて呼んでるのかな。
心の中ではサエさんって呼び続けてるけど、妹が名字をもじったあだ名で呼ぶはずないよね。
うーん、…お兄ちゃんとか?いや、違和感あるな。
だって本当の私は高校生で、サエさん達より年上だし。

「なまえちゃん、今日具合良くないの?」
「葵くん…」
「それも、どうして?」
「え?」
「みんなのこと名前で呼んでたのに、今日だけ名字じゃん …なんか、嫌なことしちゃった?」
「え、あ、えっと…なんでもない!ちょっと頭痛いから混乱してたかも!ごめんね、剣太郎」
「本当?僕はいいけど…無理しないでね?」

私…みんなのこと名前呼びなんですか…。
剣太郎、ヒカル、春風、希彦、聡、虎次郎…?
ええ、呼びにくい!

「ねー、剣太郎」
「なーに?」
「私なりのあだ名を考えようかと思うんだけど、どうかな」
「あだ名?例えば?」
「剣太郎は、…や、剣太郎は剣太郎で言いやすいからいっか」
「えー!」
「ヒカルもいいや ダビデもいいけどヒカルのが可愛いからヒカルにしよ」
「ん?呼びました?」
「なんでもないよ!でー、春風がなー…春ちゃん」
「お、俺のことか!?」
「春くんより春ちゃんって感じだなあ」
「初めて言われたよ…」
「希彦は、やっぱりいっちゃんなんだよね …でもせっかくだから、いっくん」
「可愛くていいのねー」
「ね!で、聡は聡でいいよね!」
「お、おう」
「お兄ちゃんって呼ぶのは恥ずかしいから、虎次郎は虎次郎かなー」
「ひねりがないな」
「いいじゃん!で、亮くん!」
「ん、それでいいよ」
「よっし!じゃあ今日からそう呼ぶから!」
「なまえは相変わらず自由だなぁ」

この世界の私が自由人って設定で良かったあああ!


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