「携帯貸してください」
部活が終わった帰り道。友達は駅に向かうけれど、私は自転車通学なので一人反対方向に向かう。毎日思うけど、これ寂しいよ。楽しそうに笑う後ろ姿を見てから自転車をこぐため足に力を入れた。

「あ」
「ん?…あ」
「ども 今帰りッスか?」
「あー、うん 財前くん、も?」
「まあ、はい」
「…歩きってことは、電車?」
「いや、歩き 家すぐ近くやから」
「え、あ、そうなんだ …こっち?」
「そっち」

指を差すのは私が向かう方。少し目を合わせた後、私は自転車を下りた。せっかくだから、一緒に帰ろ?へらっと笑って言うと首にかけていたヘッドホンを外しウォークマンを操作して、鞄の中に閉まってしまった。これは、良いということなのだろうか。ゆっくり歩き出すと財前くんも自転車を挟んで隣側に立って歩き始めた。今さらだけど、ちょっと緊張するなぁ。

「名字先輩」
「ん、なに?」
「高校では図書委員やないの?」
「あー なんか、私のクラス図書委員人気で、じゃんけん負けちゃったから」
「へー」
「財前くんは、本が好きなの?」
「いや、別に …でも、図書室は好き」

小さい声で言うとすぐに「先輩は本の虫っぽい」とからかうような口調で言い出した。別に悪いことではないのに、なんでバカにされた気分になるんだろう。絶対財前くんの口調と顔のせいだ。嘲笑って言葉がぴったりの笑い方がここまで似合う人初めて見た。ぷくーっと頬を膨らますと、財前くんは噴き出すように笑った。あ、その顔、好き。

「私、家こっち曲がる」
「…俺は逆 先輩、メアド教えて?」
「え?良いけど… この前スマホにしたばっかりだから、やり方わかんないよ?」
「携帯貸してください」
「はい」

ポケットから携帯を出して渡すと、スイスイと素早く操作して何かを打ち込んでいた。財前くんの携帯を出さないということは、私の方に登録してくれてるのかな?歩きながらでも当たり前のように手を動かし続けるから、きっとこの子は現代っ子なんだろうなあ、なんて一つしか違わないのに思った。私は昔から機械が苦手だった。

「はい、俺の番号とアドレス登録しといたんで、メールください」
「はーい わざわざありがと」
「先輩あんまり携帯とかいじらん人?」
「え、うん 用事あったら直接会うし」
「ツイッターとかやっとらんの?」
「…そうだね」
「今の間はなんなん 学校の人には内緒でやってたりするんスか?」
「…あんまりいっぱいは呟かないんだけどね?」
「やっぱりやってるんやないスか 教えて」
「え、なぜに!?なんも面白くないしむしろつまんないし!」
「ええやん 学校じゃあんまり会えないんやし、ただのフォロワーって思ってくれてええから」
「…誰にも言わないでね?」
「当たり前」

高校に入ったばっかりの頃に作ったアカウントは、毎日一回なんでもないことを呟くだけで満足していた。誰かに教える予定もなかったから鬱っぽいツイートも変にテンション高いツイートもあるし、本当は少し教えたくなかったけれど、なぜか無表情なのに少し目を輝かせて聞いてくる財前くんを押し返すことはできなくて。他の人には教えないという条件つきでIDを教えてあげた。ほんの少し、財前くんのつぶやきを見てみたいという下心もあったんだ。



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