バレンタイン | ナノ





「なまえさん、はい」
「…ありがとう?」
「なんで疑問形なんですかー?」
「え、あの、なんで花束…?しかも薔薇…」
「今日…バレンタインですけど」
「…もしや、私にバレンタインのプレゼント?」
「もしやもなにも」

はあ、とため息をついたフランは幻覚で小さくロウソクを灯した。月明かりだけでは暗かった部屋が柔らかく照らされ、フランの呆れた顔がはっきり見えてしまった。…違う、今問題なのはそこではない。

「チョコ、作ろうと思ったのに…!」
「…チョコ?」

そうだ、ここはイタリアだった。私の生まれ育った日本ではないんだ。小さい頃から女の子が男の子にチョコをあげるという文化の中で育った私は、ここが外国で、日本以外ではバレンタインは男の子が女の子にプレゼントを贈る日だということをすっかり忘れていた。フランがくれた花束を抱きかかえながら唸っていると、フランが優しく頭を叩いた。

「ミーは、なまえさんがくれるならチョコ欲しいですよ」
「…なんか、バレンタインなのに男の子からもらって…後から女の子が渡すとか女子力どうしたって感じで…」
「なまえさんの日本的考え方は知らないですけど、ミーは後からでも全然関係ないし嬉しいって思いますよ」
「こういうときに限って甘やかすし…」
「今日だからこそ甘やかすんですー」

フランの慰めを聞いて、自分が予想以上に落ち込んでいることに気がついた。うん、まあそりゃ落ち込みますよ。ちゃんと準備はしてきたんだ。ルッス姉にキッチン使う許可ももらったし、ボスに仕事をもらって自分の報酬で買い物もしてきた。あとは作ってフランに渡すだけだった。…昨日のうちに、作っておけばよかったなぁ。

「ねえなまえさん」
「んー…?」
「バラの花言葉、知ってますか?」
「花言葉?愛情…とかじゃなかった?」
「はい 他には?」
「他?うーん、青のは奇跡だった気がする」
「蕾は愛の告白って花言葉もあるんですよ」
「…な、なに?」
「"あなたのすべてはかわいらしい"」
「…え?」

目を細めて笑ったフランは、花束を私から奪い取り潰れないよう優しくテーブルの上に置いた。すぐに私の所へ戻ってくると、間にあったバラがなくなったからぐっとすき間を詰めて、包み込むように私を抱きしめた。

「バラの花言葉なんかではうまく表現できません でも、ミーはなまえさんのことだぁいすきだってこと、わかってくれましたか?」
「ふ、フランが大好きって言った…」
「だってバレンタインですから 愛の告白をするための日でしょう?」
「…私もだいすき」
「ミーの好きな人がなまえさんでよかったです」

フランの温もりの中聞く言葉はどれも息が詰まるくらい甘くて優しくて、雰囲気にのまれて私も珍しく素直に甘えることができた。