「スパナ、いる?」 「…なまえ」 「ご飯だよ 食べる?」 「んー…」 「…ご飯持ってくるから、一緒に食べても良い?」 「んー」 「すぐくる」 スパナが人の話を聞かないのなんて今さらだから、私はいつもこうしてスパナと一緒に行動するようにしている。否定も肯定もしなかったら、私の中でそれは肯定なのだ。目の前のことに夢中になるから、放って置いたらご飯も食べずに寝ることもせずに一週間くらいラボに篭ってしまう。それを防ぐために入江さんに頼まれてるのもあるし、単純に私が会いたいというのもあって、私は週に2、3度扉を開ける。散らかり放題で狭いこの場所が、今では基地内で一番落ち着く場所だった。 食堂に行って二人分の食事とお茶のボトル一つを持って、転ばないように来た道を戻った。扉を開ければ先ほどとなにも変わらない…いや、スパナの横にあったものがどかされ空間があった。自然と上がる口角を隠すこともせずスパナの隣に座り、スパナのコップにお茶を注いだ。やっと顔を上げたスパナに笑いかけ、食べよう、と言えばすぐに作業を中断してくれた。 「いただきます!」 「…いただきます」 「今日はムニエルか おいしそうだね」 「なまえ、いつもありがと」 「え?」 「おなか空いてたみたいだ 腹の虫が鳴った」 「ふはっ、そっか それは良かった!」 「ん」 もぐもぐとじっくり噛みながら食べ進めるスパナ。それを眺めつつ私も箸を動かした。静かな時間が流れて、私より先に食べ終わったスパナは、まだご飯を咀嚼する私を見た。 「な、なに…?」 「…ウチ、なまえのこと好きだよ」 「ごほっ、くっ」 思わず口の中にあったものを噴き出しそうになり、慌てて抑えた。ん?あれ?今なんて言った?なぜこの平和なご飯シーンで告白?こ、こくはくだと…!?自分で考えててスパナが告白というのはあまりにも違和感がある。なぜこうなった。私の箸が進まないことに気がついたのかスパナは「どうした?」と普段通りに聞いてきた。どうしたって君ねぇ…。 「なんで急に好きとか言うの?」 「…え?好きだからだけど?」 「は…はあ…」 「なまえがウチのこと嫌いだと感じたことないけど、もし嫌いだったらごめん」 「嫌いじゃないよ」 「そっか」 ふわっと笑って、スパナはお茶を飲んだ。なんなんだこの可愛い子。私も好きデスヨー、と心の中で思いつつ口を尖らせてチラッと反抗。私ばかり翻弄されてる気がするなあ、スパナをあっと驚かせるようなこと、できないかな…。 また何かを弄ることに集中し始めたスパナの横から「わっ!」と言っても、スパナは静かに私を一瞥しただけだった。 「…ごめん」 「いいけど どうしたの?」 「スパナを動揺させたかった…」 「…意味わかんないし」 「うん、だよね」 「それになまえにはよくびっくりさせられる 心臓に悪いよ」 「そ、そう…?」 「今も 近くにいるとどうしたら良いか分からない」 「え!?スパナ…!?」 「あ、また驚いた ウチの勝ち」 「…人で遊ぶな」 「でも全部本心だから、覚えといて」 「…え?」 ふんふんと鼻歌を歌いながら作業に戻ったスパナ。おい、爆弾落として放置なのか。もう集中し始めてしまったのか声は届かなくて、私は一人で悶々とするだけだった。 |