一万打企画 | ナノ

「なまえー、ねぇー」
「…今、私不二くんと話してたんだけど?」
「いいよ名字、英二の方が急用みたいだし」
「甘やかしちゃダメだよ不二くん …英二、ごめんなさいは?」
「…不二とばっか話さないでよ、寂しい」
「……ちょっと、お手洗い」
「いってらっしゃい」

拗ねたように唇を尖らせる英二と苦笑いで手を振る不二くんを見てから教室を出た。くそっ、くそくそ。…かっわいいな!だいすきだよ英二っ!!こみあげてくる思いを殺しきれず壁をガンッと殴りつけた。痛い、周りからの視線も痛い。視線を下げたまま、トイレの個室へ入り込んだ。あーあーあー、なんか、心臓も痛い。

私は、幼馴染の菊丸英二が好きだ。勿論恋愛感情として。しかし小さい頃から一緒にいる彼はカケラもそんなことを思っていないようで、同い年の女の子というより同い年の兄妹というように認識されている気がする。多分勘違いじゃない。中学に入ってからの彼はあざとさというものを身につけてしまい、私は毎日自分の感情と戦って生きている。勉強してこの悩みがなくなるならいくらでも勉強しようと、万年補習組の私が思うくらいには大変な思いをしている。

「…英二、そこでなにしてんの?」
「あ、なまえおかえりー 戻ってくるの待ってただけだよ?」
「なんで私の席に座る必要があるのかな…!ほら早くどいて!」
「だって、なんか最近、なまえに避けられてる気がして、嫌なんだもん」
「さけてないよ!」
「…怪しい」

妙なところで感が良い。全く猫みたいな奴だな。微妙に視線を反らしつつ返事をすれば、頬に手を添えられ無理矢理視線を合わせられる。だから、そういう行動もやめてほしいんだけど!めっちゃくちゃ恥ずかしいし、変な期待しちゃうし!

「…あれ、なまえ、熱ある?顔赤いしあったかい気がする」
「気のせいだよ!元気、…う、わっ!?」
「なまえ!?」

これは英二のせいで、なんて考えつつ返事をしようとしたら、急に地面を踏む感覚がなくなり次の瞬間には地面とコンニチハしていた。え、なにこれ、どうして…。

「ちょっとごめんね」

ぐらぐらする頭で考えていると、英二の硬い声が聞こえてふわっと空中に浮かんだ。え、あれ、これは。俗に言うお姫様抱っこというものでしょうか…?上を向くと真っ直ぐ前を見つめる英二が見えた。ああ、今私は英二にお姫様抱っこされているんだ…。理解した途端、緊張やらなにやらでフっと意識が飛んだ。ええ、滅多にない機会なのに…。



「なまえ、大丈夫…?」
「…あ、英二 えっと…ああ、そうだ」

知恵熱でも出したのかな。いまだグラグラする頭で英二を見続けると、べーっと舌を出された。なんなんだ、意味がわからない。

「ごめんね、英二が運んでくれたよね」
「別にそれは良いけど… 具合悪いなら言ってよ びっくりすんじゃん」
「だって自分でも気がつかなかったんだもん …ていうか英二のせいだし」
「…なんで俺のせい?あ、昨日遅くまでゲームしたから?」
「ちーがーいーまーすーっ もういいよ、英二のにぶちん」
「えぇー?」

理不尽な怒りをぶつけられて可哀想な英二、なんて張本人なのに思ってみせる。でも英二が気持ち察するのうまかったら、もう私はこの想いを消せているかもしれないでしょ。告白するよりされたいという理想を持っているから自分で想いを告げることもできないなんて、どこの乙女の話ですかね…。

「ねえーなんで俺のせいなのー?」
「自分で考えなさーい」
「いじわるー」

私が寝るベッドの横にイスを置いて座っていた英二は、ぐだーっとベッドに倒れこんだ。全く可愛いやつだ。

「…なまえ、不二のこと好き?」
「…どういう意味で?」

さっきまで英二を好きだってことばかり考えていたから素直にその質問に答えることができなかった。好き、だけど、もちろんそれは友達としてなわけですよ。

「ぎゅってしたいとか、キスしたいとか」
「…思ったことはないですが」
「…そっか、なら良かった」

なにが"良かった"なのか追求しても良いかな?