先輩
菊丸英二、今までの人生最大のピンチです。好きな子に「好きな人にフラれた」と泣きつかれています。…俺が泣きたい。
「私、可愛くないから、自信はなかったけどっ」
「そんなことないって 名字は可愛いよ」
「せ、先輩だって好きな子はすごい可愛いじゃん…」
「えっ、俺の好きな子知ってんの！？」
「やっぱり好きな子いるんだぁあ」
「えええ、泣かないでよ…」
目の前にいる君が"好きな子"なんだけど！？ボロボロと涙を零す姿も可愛くて思わず出そうになった手を理性で抑える。ああもう、なにこれひどくない！？神様からの試練ですか！俺が泣きたいんだけど、泣いても良いかな？
「どうしよう、もう、どんな顔して学校くれば良いか分からないです」
「俺もどんな顔して名字に会えば良いか分からないです…」
「…え？」
「なんでもない」
涙目で見上げてくる名字は俺の気持ちに一切気がついていないようで不思議そうに聞き返してきた。無自覚って一番ひどくない…？
「大丈夫だよ、今たくさん泣いたら、忘れられるから」
「ほ、本当に…？」
「うん 絶対」
良いよもう、開き直ってやる。優しく頭を撫でて促せば、ぎゅっと抱き着いて声も出さずにひたすら泣いていた。泣け、いっぱい泣いて忘れちゃえ。ふんわりとした匂いに気を取られないようゆっくり背中をさすっていれば段々と呼吸が落ち着いてきた。握られていたシャツが離され、ぐしゃぐしゃになってしまった顔が上がった。真っ赤になった目元も頬も可愛い。
「…す、すみませんでした」
「んー、"ありがとう"の方が良いかな」
「ありがとう、ございました…」
「もう大丈夫？…目腫れちゃったね、ごめん」
「そんな！謝るのは私ですよ…、関係ないのに迷惑かけちゃって」
「関係なくないよ」
ただの先輩かもしれないけど、俺にとって君は好きな子だから。だから関係ないなんて言わないで、…って言えたら良いんだけどね。失恋したとこ狙うなんて嫌なやつじゃん。付き合うきっかけが失恋なんて良い思い出じゃないじゃん。カッコつけかもしれないけれど俺はそう思うから、笑ってる名字に告白して返事をもらいたい。…その前にまずは、上手く慰めて泣き止んでもらわないとね。
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