指切りげんまん | ナノ


後ろから抱き締められる 


「えっ!?風邪!?」
「ああ、心配するなと笑っていたがな」
「そ、そうなんだ…」
「…気になるか?」
「え!?あ、えっと、そりゃ、友達だし…」

嘘です。
本当は、高尾くんのことが好きだから気になるんです。
そんなことを緑間くんに言えるはずもなく曖昧に濁すと、緑間くんはほんの少し眉を寄せて悩んでいるような顔をした。
あ、緑間くんも心配なのかな、相棒だもんね。

「早く元気になるといいね」
「…今日のあいつのラッキーアイテムはピンクのクマのキーホルダーだ」
「え?…あ、私の鞄についてるようなやつ?」
「ああ もし良ければ見舞いの品にそれを貸してやってはくれないか」
「いいよ!ぜひ持っていてあげてください!」
「沖田もこい」
「…え?」
「二人の方が高尾も喜ぶだろう」
「私なんかが行って高尾くんが喜ぶわけないよ…?」
「人数が多い方が良い 風邪の時は人恋しくなるらしいからな」
「…そういうことなら」

風邪の時は一人ぼっちが本当に寂しいから、誰かに近くにいてほしいよね。
私なんかでも少しは役に立つかもしれない。
…なんて思って、実はただ高尾くんのこと一目でも見たいだけなんだけど。
お見舞いってことは家に行くんだよね。
緊張してきた。



「待たせたな」
「ううん、お疲れ様 えっと、…本当に私一緒に行っていいの?」
「何度も言わせるな 行くぞ」

緑間くんの部活が終わるまで待って、二人並んで校門を通る。
緑間くんのことをあまり良く言わない人が多いけれど、中学から友達をさせてもらっている私にとっては優しくて面白い人。
いろいろな話をしながら歩いていればあっという間に高尾くんの家についたみたいだ。
躊躇いなくインターホンを鳴らした緑間くん。
私は彼の後ろに隠れるように立った。

「あら、緑間くん!わざわざ来てくれたの?」
「体調はどうですか?話ができるようなら少し話したいのですが」
「あがってちょうだい さっきまで寝てたんだけど、熱も少し下がって…、あら?緑間くんの彼女さん?」
「いえ、クラスメイトです 高尾とも仲が良くて、一緒に見舞いに」
「初めまして、沖田です いつも高尾くんにお世話になっています」
「いえいえ、こちらこそ仲良くしてくださってありがとうございます お調子者だから迷惑かけることも多いでしょう?」
「高尾くんには助けてもらってばかりです 本当に感謝しています」

頭を下げると高尾くんのお母さんは優しく笑って私の頭を撫でた。
笑った顔が高尾くんそっくりだなぁ…。
ほわあっと癒されていると、階段を下りてくる足音がして、高尾くんが現れた。

「あれ、真ちゃんじゃん わざわざ来てくれた、の… えっ、え、沖田ちゃん…?幻覚?」
「幻覚じゃないのだよ ラッキーアイテムを持っていたから連れてきた」
「あ、お邪魔してます!勝手に来ちゃってごめんね 連絡すれば良かったよね…」
「気にしないで!母ちゃんなに沖田ちゃんに触ってんの!夕飯作ってる途中でしょ!はい戻って!」
「風邪っぴきなんだから大人しくしてなさいよ」
「子供じゃねーんだから平気だって!」

階段を急いで下りてくると、お母さんの背中を押してリビングの方へ追いやった。
ふう、と一息ついている高尾くんを見て私はキュンとするのを抑えることができなかった。
パジャマ代わりであろうスウェットとTシャツ、はずしかけのマスクとおでこに冷えピタ。
一生見る機会はなかったはずの家での高尾くんを見ることができた…。

「…あー、とりあえず、部屋くる?リビングじゃ落ち着けないだろうし」
「ああ」
「え、じゃあ私はもう帰るよ これ、ラッキーアイテム貸すね」
「えっ…もう帰っちゃうの…?」

鞄から外したラッキーアイテムを渡そうとすると、高尾くんは寂しそうに私を見てそう言った。
上目遣いとか、風邪のせいで火照った顔とか潤んだ目とか、断れるわけがなかった。

「…まだ、いようかなー」
「ん、そうして」

歯を見せてそう笑うと、先に部屋に向かった緑間くんの背中を追った。
私は高尾くんの笑顔の破壊力について考えつつ後ろをついて行った。

高尾くんの部屋は少しだけ散らかっていて男の子の部屋らしい感じだった。
片しておけばよかった、と肩を落とす高尾くんだけれど、私は緊張でそれどころじゃない。
だって、好きな人の部屋だよ。
置いてある漫画を見てこんなのが好きなんだとか、隅に転がるバスケットボールや机の上のバスケ雑誌を見てバスケが大好きなんだなあとか。
なによりも部屋は高尾くんの匂いしかしないからなんとも言えない恥ずかしさがあって…!

「そこらへん座ってて、なんか飲み物持ってくるよ」
「病人は寝ていろ」
「えー、寝てるのはなー」
「まだちょっと熱あるんでしょ?無理しちゃだめだよ」
「…二人に見られながら寝るのとか、そっちのが無理だわ」

恥ずかしそうに顔を覆うと、ベッドの上に倒れこんだ。
ゴロゴロ転がった後に指の隙間から私達を見て、嬉しそうにはにかんだ。
か、かわっ…!

「俺はもう帰る 後は頼んだぞ沖田」
「「えっ!?」」
「じゃあな」

本当に出て行ってしまった緑間くんを見ながら二人で呆然としていたが、はっと気づいて私も立ち上がる。
私も帰るね、お邪魔しました、とかそんなことを早口で行って部屋を出ようとした。

「待って!」
「え?」
「…もうちょっと、いてほしい…デス」

私の手首を掴んでそう言った高尾くんは、すぐに顔を真っ赤にしてすうっと手を離してしまった。
くるっと振り向いて高尾くんの手を握ると、驚いたように目をまんまるにした。
風邪の時は人恋しくなるって緑間くんが言ってた。
せっかくお見舞いにきたのにこんなにすぐ帰っちゃったら寂しいよね。

「もうちょっと、ここにいても良い?」

驚いた顔のままゆっくり首を縦に振った高尾くん。
男の子に失礼かもしれないけれど、ちょっと可愛かった。
ベッドの端に高尾くんが座り、私はベッドを背に床に座った。
ど、どうしよう。
高尾くんから私の顔は見えないと思うけれど、今すごく赤くなっている気がする。
だって!好きな人の部屋に二人きり!?
正直緑間くんには感謝してもしきれない。

「沖田ちゃん」
「はい!?」
「…ぷっ なに、緊張してんの?」

クスクス楽しそうに笑う高尾くんを少し振り向いて見上げる。
してないよっ!と拗ねたように言えば頭をわしゃわしゃと撫でられた。
いちいち行動が心臓に悪いのだけれど!!

「なーんて、俺のが緊張してんだけど…」
「…え?」
「なんでもない!あんな、俺の部屋に女の子が入るの、沖田ちゃんが初めて」
「……高尾くん、熱でテンション高くなってるでしょ」
「ふふ、よく分かったな でも、本当のことしか言わないぜ」
「…心臓痛いよ」

ボソッと呟いた声は聞こえなかったようで、高尾くんは楽しそうに笑い続けていた。
あーもう、可愛いなー。
膝を立てて顔をうずめていると、笑い声がやんで部屋が静かになった。
どうしたのかと顔を上げるのと同時に、背中にトンっと重みがかかった。

「…え?高尾、くん?」

返事がないから寝たのかと思ったら、高尾くんの腕が私の前にまわり少し力が入った。
固まって動けなくなっている私の耳元に高尾くんの息遣いが聴こえた。

「…沖田ちゃん、すき」

何か言わなきゃと口を開けるものの、パクパクと空気を食べるだけ。
待って、顔が見たい、高尾くん。

「ごめんな、こんなときにしか言えなくて」
「たっ、たかお、くん」
「ん?」
「私も、高尾くんの」
「だーめ」

振り向いた瞬間手で口を塞がれて、赤い顔の高尾くんと至近距離で目が合う。
二っと悪戯っ子のように笑った彼は、正面から私を抱きしめて言った。

「返事は、俺の風邪が治ってからにして 夢だなんて思いたくないから」

ぎゅーっと力がこもって、すぐに離れた。
えへへ、と照れたように笑った高尾くんは布団に潜り込んでしまった。
私はきゅっと布団を握り、高尾くんの頭があると思われる場所にキスを一つ落とした。
早く元気になって、私の言葉を聞いてね。

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