指切りげんまん | ナノ


切り過ぎた前髪を撫でられる 


「今日は沖田ちゃんお休み?」
「さっき遅刻するとメールがきていたのだよ」
「えっ 真ちゃん沖田ちゃんのメアド知ってんの!?てか真ちゃんに遅刻連絡する沖田ちゃんすげー!」

ケラケラと笑ってそう言った高尾。
だが目が笑っていない。
俺が見てわかるのだからそうとう分かりやすく怒っているのだろう。
高尾は、沖田が好きだ。
本人はおそらく自覚しているしそのうえで沖田に良く接している。

「なんで遅刻なのか知ってる?」
「…前髪を、切りすぎたらしい」
「…はい?」
「あいつの考えはよくわからん」

前髪を切りすぎるとなぜ学校に遅れるんだ。
多少時間が経っても前髪が伸びるわけがないだろうが。
沖田の遅刻理由を聞いた高尾は心底可笑しそうにケラケラと笑った。
五月蝿いから頭を叩いても笑い声は止まらない。
それどころかどんどん笑いのツボから抜け出せなくなっているようだった。

「電話する 少し黙っていろ」
「え、沖田ちゃんに?」
「…ああ お前がするか?」
「え、…いや 良い、です」
「…途中でかわるから早くこいと言っておけ」
「ちょ、真ちゃん!?」

慌てる高尾を無視して沖田に電話をかける。
数回のコールの後、緊張しているような声が聞こえた。

『も、もしもし…緑間くん?』
「ああ、まだ家か?」
『…うん』
「高尾にかわる 切るな」
『えっ!?』
「えっ、もう!?無理無理無理!」
「早くしろ 通話料が勿体無いだろう」
「金持ちのくせに!あーもう!…もしもし?」
『たっ、高尾くん…?』
「…ん、高尾くんですよー 具合、は、悪くねーんだよな 前髪だっけ?」
『…えっと、ちょっと切りすぎちゃって』
「そんな気にすることじゃない、つっても気にするよなー そんなに切りすぎちゃったの?」
『や、ちょっとだけ… 大丈夫、ちゃんと行くよ』
「気になるんなら無理して来なくてもいいよ って、あ、別にくんなって言ってるわけじゃねえから勘違いすんなよ?俺は来て欲しいけど、沖田ちゃんが嫌なら…あー、なんかこれもちげえわ 難しい」
『…ありがと』
「え?」
『高尾くん優しいね 前髪、変でも笑わないでね 三時間目には間に合うように行く』
「あ、うん…」
『じゃ、また後で』

電話が切れた後も放心状態の高尾から携帯を奪い、電源を切って鞄にしまう。
何を話したのかは知らんが、どうせ沖田にありがとうだの優しいだの言われたのだろう。
こんなに分かりやすいくせにこいつは自分の思いが誰にもバレていないと思っている。

「授業は集中して受けろバカ尾」
「集中なんかできねーよ…」



二時間目の授業が終わり周りが騒がしくなった。
高尾もクラスメイトと話をしていたが、ふっと顔を上げると何か適当な言い訳をして席に戻って来た。
高尾が席につくと、後ろから小さな声で挨拶が聞こえた。
…ああ、なるほど。

「おはよう緑間くん、…高尾くん」
「早くはないがな」
「おはよ、沖田ちゃん」

パッと振り向いた高尾は、沖田の顔を見るなり俺の机に伏せた。
沖田はそれを前髪を笑われたと思ったのか、泣きそうに顔を歪めた。
誤解されている。
高尾は笑っているのではなく、ニヤついているのだ。

「やっぱり変だよね…」
「ち、違う!ちょっと待って沖田ちゃん 10秒待って!」

律儀に10秒数えた沖田。
高尾は急いで顔を上げ、沖田の前に立った。
手を伸ばして沖田の前髪に触れると、優しく笑ってそれを撫でた。

「全然切り過ぎてないじゃん むしろ沖田ちゃんの顔よく見えて、可愛い」

真っ赤になった沖田は、その日の授業中ずっと高尾と反対の方向を向いていた。

「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -