指切りげんまん | ナノ


耳元で囁かれる 


このクラスで半年も過ごせば誰がどんな奴か、誰とどんな関係か大体は把握していた。
人見知りをしない俺は、いつも緑間とばっかりいるわけじゃなくてクラスメートみんなとどんな奴でも一回は話したことがあった。
一回しか話したことがないのに一番印象に残っている、それが沖田だった。

「高尾くん、それ日直の仕事?」
「え?…沖田?そうだけど、どうかした?」
「今日部活あるよね 私代わりにやるから行って良いよ」
「いやいや、悪いし」
「…緑間くん、待ってるでしょ?この仕事は誰でもできるけど、緑間くんの相棒は高尾くんしかできないじゃない」
「…んじゃ、お願いしても良い?」
「もちろん 部活、頑張ってね!」

たった一回、その一回が心を動かしてしまったんだ。
今思えば沖田は本当に緑間の心配をしていただけで、緑間と仲良くなった俺への感謝も込められていたのかもしれないが、それでもその優しさに惹かれた。
だって笑ったんだ。
俺の肩書きとか顔とか、女子が気にしそうなもん全く気にしてないみたいな顔して、本当に心から"頑張れ"って言ってるみたいな顔して、笑ったんだ。
中学時代どんだけ仲良かったのか知らないけどたかが友達のために心から笑えるって、結構すごくね?
まあそん時の俺は"沖田って俺のこと好きだったのかな、笑った顔とかストライクなんですけど"なんて馬鹿なことしか考えてなかったけど。

「…高尾くん?」
「ん?あ、なに?」
「あの、この漢字なんて読むか教えて欲しいんだけど…」

まさか隣の席になっちゃうなんてなー。
予想してなかったってか、なれなかったら嫌だから予想しなかったってか…うん、嬉しい。
今まで想像しまくってた隣の席イベントとかこれなら出来ちゃうじゃん、なんてまた馬鹿なこと考えて。
教科書忘れた沖田と机くっつけて同じ教科書見るとか、授業中なのに沖田のことしか考えられないわ。
でもこれは沖田が悪いよね、俺は教科書見せてあげてるだけ。
だから髪の毛から香る甘い匂い意識しちゃったり、猫背でノート頑張って書いてる時に見えるうなじ見ちゃったり、そういうのは不可抗力ってやつでしょ。

「な、なんか、視線感じるんだけど…?」
「気のせいっしょ」
「私変なとこある!?気になることあったら教えてね?」
「あー…じゃ、耳貸して」

赤い顔して上目遣い、それ天然?
新しい一面を知る度にめちゃくちゃテンション上がるこっちのことなんてお構いなしだもんなあ。
無防備に耳を見せた沖田の近くに顔を寄せ、強くなった甘い香りの中で小さく囁いた。

「ないしょ」
「ひゃっ…」

フッと一息吹きかけると面白いくらいに反応を見せてくれる。
赤い顔をもっと赤くして耳元押さえて涙目で…ああ、なんか俺、馬鹿みたいに沖田好きかも。
好きな子ほど虐めたくなる小学生男子の心を持ったまんま来ちまった。

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