指切りげんまん | ナノ


頬をつねられる 


「沖田、一緒に弁当を食べないか」
「…え?私?」
「そうだ」
「…良いけど、どうして?」
「高尾が沖田を誘って食べろと言ったのだよ」

端的な言い方しかしない緑間くんの話をまとめるとこういうことらしい。
高尾くんは部活の先輩とフォーメーションの話し合いがあるから、昼休みが始まってすぐ先輩のところへ行ってしまった。
しかし去り際、一人でお弁当を食べる緑間くんを想像した。
そして私も今日お弁当を一緒に食べている友達が休みで一人だということを思い出した。
そこで私を誘うことを提案した、ということらしい。
気遣い屋というか世話焼き屋というか…優しいことこの上ない。

「緑間くんは良い相棒さんがいるんだね」
「…ふん」

否定しないあたり自分でもそう思うことがあるんだろう。
中学の頃より雰囲気が柔らかくなったと感じたのは間違えではなかった。
久しぶりに緑間くんと話せるし断る理由もないので、高尾くんの席を借りて後ろを振り返った。
いつもの高尾くんの様な行動に一瞬眉を寄せたけれど諦めたように鞄からお弁当を取り出した緑間くん。

「うわぁ!めちゃくちゃおいしそうだね、緑間くんのお弁当…!」
「…反応まで高尾そっくりなのだよ」
「え?」
「なんでもない 沖田の弁当は自分で作ったものか?」
「うん まあ昨日の夜ご飯とか詰めただけだけどねー」
「いや、十分だろう 朝早くから親に負担をかけてしまう俺よりは、倍偉い」
「緑間くんに褒められた!」

いつもはお母さんに作ってもらうけれど、偶然今日は自分で作ってきて良かった。
珍しく優しい緑間くんに、調子に乗って"から揚げちょうだい"と言ってみると変な顔をしながらも一つくれた。
本当にとても貴重だ、この緑間くん本物?

「ん、おいひい ありがとー」
「代わりになにかよこせ」
「えー 卵焼きで良い?」
「…卵焼きとから揚げでは等価交換にならん」

「じゃあ卵焼きは俺がもらっとくね!」

急に上から降ってきた声。
驚いてパッと顔を上げるとそこには話し合いが終わって戻ってきたらしい高尾くんがいた。
ニヤッと笑った高尾くんは、私の手を掴んで箸の刺さったままの卵焼きを口に入れた。
…え?

「ん、うまい 沖田ちゃん料理上手なんだねえ」
「や、全然、そんなことないよ」
「…高尾、行儀が悪い」
「あー、ごめんね?…てか沖田ちゃん!」
「え?なに?」
「もしかして真ちゃんにあーんってしようとしてなかった!?」
「え、あ…改めて言われると、恥ずかしいね…」
「ダメだよ沖田ちゃん!簡単にそんなことやったら…いや、なんでもない!とりあえずやっちゃダメ!」

優しい力で頬をつねって"分かった?"と聞いてきた高尾くん。
私はあーんってするよりこっちの方が100倍恥ずかしい。
こくこくと頷くとつねった頬をふにふに触りだして、顔に熱が集中した。
触られている左頬は特に熱い。

「…真ちゃん!ちょっと便所行ってくる!」
「食事中にわざわざ言うな …さっさと行け」
「つねっちゃってごめんね沖田ちゃん!」

両手を合わせて目をつむった彼に「大丈夫だよ」と手を振ると笑顔になって走って行ってしまった。
そういえば"沖田ちゃん"という呼び方が定着している、仲が良いみたいで嬉しい。

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -