初公開の素性


「瀬戸ー」
「ん?」
「今日、侍の家行くから」
「…ん?」
「叫んで喉痛めんなやー」
「…は、はあああ!?」
「叫ぶなって」

馬鹿かお前。馬鹿かお前。大事なことだから二回言ったよ。馬鹿かお前。三回言ったよ。普通当日に言う?なんで昨日言わないの?まあ忍足だからしょうがないか…。はい、と渡されたのど飴を授業中ずっと舐めていた。



学校が終わり"教室で待て"との指示を守っていると忍足がコソコソと入ってきた。何やら回りを警戒している。

「忍足?」
「早くきて 走るで」
「え、なん…っ!?」

言われるままに近づくと腕を引かれ廊下をすごい勢いで走り出した。は、ちょ、待てよ。男子の足に女子が付いて行けるわけがないでしょうが。途中でグッと引っ張ると少しスピードが落ちた。それでも速い。なんだこいつ止まる気ないのか。

全力疾走で走り続けること5分。駅に着いた時にはまともに話すことが出来ないほど呼吸困難だった。まじで馬鹿じゃないのか。なんで駅に行くのに走る必要があるの。死にそうになりながら忍足を睨むと奴はすでに息を整えまた回りをキョロキョロと見回していた。だから、何がいるの。

「お、おし…っ」
「〜!!すまん!ちょ、うわ、マジでごめんなさい!」
「おま、あとで、おぼえとけ…」
「うわぁすまん!せやな、瀬戸は運動苦手やんな」
「苦手とか、そういう問題じゃな、っぐ」

咳込むと心配そうに眉を下げる忍足。…本気で謝ってるみたいだし、今回は許そう。喉痛めるなって言った本人が喉痛めるようなことさせないでよ。やっと落ち着いてきた頃に丁度電車がきて忍足に続いて乗った。…あー、侍さんの家、行くんだっけ。今の衝撃で一瞬忘れてた。


着いた駅は四天宝寺からそこまで離れていない住宅街。ここからは個人情報だから覚えないで、と忍足に念を押された。言われなくても覚えるのは苦手だ。何回か曲がった後に立ち止まったそこは綺麗な一軒家だった。

「侍さんの家…?」
「ん じゃ、行くで」

インターホンも押さずに庭に入っていく忍足。おいおい礼儀は…。まあ親友だと言っていたし家にもよく行く仲なのだろう。恐る恐るついていき、庭の植物をこっそり見たりした。玄関にたどり着くと緊張で手が震えたが、忍足はそんな私には気付かずガチャッとドアを開け、閉めた。…おい、なぜ閉めた。

「忍足」
「ちょ、瀬戸先行って」
「え、知らない人の家」
「侍おるから大丈夫 大丈夫やないけど大丈夫」
「はあ?」

どうしても開けたくないのか私の後ろに回りいやいやをする忍足。ガキか。ぐいぐい押されるから仕方なくドアを開けて、閉めた。

「帰ろう」
「帰んなや」
「きゃぁああ」
「女子か」
「良いから早く 謙也が近所迷惑や」

忍足共々腕を引っ張られ家の中に招き入れられてしまった。私、無事に帰れるかな。目の前には紙袋を被り上半身裸の侍さんらしき人物が立っていた。

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