自分達の歩き方


テストの存在を忘れていたなんてこと全くないよ。うん、本当に。ちょっと意識の外に追いやってただけで。…勉強、してない。

「蔵ノ介くんヘルプ!」
「ん?どうした?」
「テスト勉強なんもしてないんですけれども!どうにかなりますかね!」
「え、なんもしてないん…それは、…うーん …とりあえず今日家来るか?ポイントだけ教えたる」
「ありがとう蔵ノ介先生様…!」
「ははっ んじゃ放課後」

持つべきものは友だね。いつも成績トップレベルな蔵ノ介くんに教えてもらえば、きっと私でも赤点をまぬがれる…!

テスト前だから部活はなく、授業が終わってすぐ蔵ノ介くんと合流して家に向かった。家には相変わらず誰もおらず、リビングで勉強道具を広げた。授業はなんとか寝ないで受けているからアンダーラインは引いてある。引いてあるけれど理解はしていない。

「これは公式しっかり覚えとけば解ける問題やから、とりあえず公式覚えて 応用問題は配点少ないし捨てても良いわ」
「うん、わかった …、これで、合ってる?」
「ん、おっけー 数学は平気そうやね」
「なんとかね… 明日は数学と化学、だっけ?」
「そう 化学は実験の内容覚えとったら大丈夫やと思う …覚えとる?」
「…えっと」
「はい、教科書53ページ開いてー」
「はーい」

蔵ノ介くんに教えてもらって復習完了。いやー助かりました。勉強の邪魔してごめんね、と言えば、俺も勉強になったから良いわ、と優しい笑顔で言ってくれた。蔵ノ介くんみたいなお兄ちゃんがいたらな…。

「で、ここからは勉強とちゃう話な」
「え?なに?」
「謙也、告ったやろ」
「お、う、なぜ、それを」
「二人とも分かりやすいんやもん で、なんて答えたん?それともまだ?」
「蔵ノ介くん女子みたいなテンションだね…」
「恋バナ好きやからな」

ニコニコと楽しそうに質問をしてくる蔵ノ介。…まあ、蔵ノ介くんなら良いかな。誰にも相談できなくて参ってたのは事実だし、テスト勉強できてないのもだいたいこれのせいだし。

「まだ返事してない 待っててもらってる」
「やっぱり フられたらもっと謙也落ち込んどるやろうなあって思った で、どうするん?」
「…どうしよう」

ぐだーっと机にうつ伏せる。どうしよう。謙也のことはもちろん大好きだ。でもそれは友達としての好きな気がするし、そもそも謙也は兄弟みたいなもんで…。うんうん唸ってたら蔵ノ介くんが頭を撫でた。顔を上げると相変わらず素敵な笑顔。どうすればいいのかな、こんなこと謙也の親友の蔵ノ介くんに相談していいのかわからないけど、私より蔵ノ介くんの方が経験豊富そうだし。

「好きで良いと思うで、友達でも」
「…え?」
「好きと嫌いの、1と0しか許されないわけやないやろ?多分謙也が告白したくなかった一番の理由はそれやと思う 栞ちゃんと今までのまま仲良くしてるのが一番幸せなんや 謙也も、好きって言ったら返事は好きか嫌いかの二つしかないと思ってる でも本当にそれだけなん?」
「…私、謙也のこと大好きだよ」
「恋愛的な好きじゃなくても、大好きはあるやろ?」
「…蔵ノ介くんも好きで、謙也も好きなの それでもいいでしょ?二人とはずっと一緒にいたい 付き合うとかじゃなくて、大切な大切な友達だから」
「ん、俺はそれで良いと思うで ちゃんとそう言えば、謙也も寂しくなんかならんと思うし」
「…大丈夫かな」
「謙也が言う好きは恋愛的な好きだって、それだけはちゃんと覚えてやってや あいつも友達やめるくらいの勇気出して告ったんやから」
「うん、…うん 大丈夫」

心の中を少しずつ整理する。大丈夫、私は謙也のこと大好き。謙也とは違う意味でも、それでも好きだから。



「返事遅くなってごめんね」
「…いや、俺こそごめんな」
「あのね謙也、私謙也のこと大好き だけどそれは謙也とは違う意味の好きだから、謙也と付き合うことはできない」
「…ん」
「だけどね?好きの気持ちは嘘じゃないから、謙也と離れたくはない わがままかもしれないけど、これからも友達でいてほしい 今までみたいに一緒にいたい、です」
「…良いの?」
「謙也が良いなら」
「…俺も、一緒にいたい」

泣きそうな顔で言った謙也にぎゅっと抱きついた。うん、私も。ごめんねとありがとうを言って二人で少しだけ泣いた。顔を上げたら謙也はもういつもと同じように笑ってて、私も釣られて笑ってしまった。謙也の近くは、すっごく暖かい。

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