きっと良妻


『Sさんとのコラボ、たくさん聴いていただきありがとうございます。あまり間は空いてないのですが新しい曲ができたので聴いてください。』

そんな言葉とともに投稿された曲は、高校生の男の子が先輩の女の子に恋をする、というストーリー性のある曲だった。一枚絵はいつも通りうじうじさんの描いたもの。ヘッドホンを首にかけた男の子が遠くにいる歌っている女の子を見ている絵。曲から痛いほど伝わってくる好きという気持ちが心に響いて、相変わらず私は画面のこちら側で涙を流した。善哉Pの曲はどうしてこんなに気持ち良く泣くことができるのだろうか。滲む画面をぼんやりと見ながらメロディーを頭に染み込ませていった。



「瀬戸!…あ、昨日の新曲聴いたん?」
「…あー、やっぱり目赤い?冷やしたんだけどな」
「ん、ちょっとだけ あ、そうや、相談あるねんけど」
「相談?勉強のことなら蔵ノ介くんの方がいいと思うよ」
「勉強のこととちゃうわ もっと大事なこと」
「…今日謙也の家行って平気?」
「おう 部活終わるの待っとって」
「うん、おっけ」

謙也に手を振って、図書室に向かった。今日は新刊が届く日のはず。そして今日は財前くんが当番のはず。

「おはようございまーす」
「え、栞さん… どうしたんスか」
「今日新刊の日だよね?手伝いに」
「司書さーん、パシリきましたー」
「パシリってひどっ!」

笑顔で準備室からでてきた司書さんに新刊のチェックリストをもらい、財前くんと二人で事務室に向かった。以前一緒に歩いたのが懐かしいな。…あ、そういえば。

「財前くんも白玉善哉好きなんだっけ?」
「…も?」
「あ、えっと、この前私善哉P好きって言ったよね?その善哉Pもね、白玉善哉好きなんだって」
「…へー」
「同じだなーって、ふと思っただけ!」

財前くんは興味ないことだったかな、と笑ってごまかした。しかし、横目で見た財前くんはなぜか少し楽しそうな顔をしていた。



「待たせた!」
「ううん、本読んでた 行こっか」
「おう」

部活が終わって部室から出て来た謙也。だいぶ急いだのかカバンの中からタオルがはみ出ていた。トントンと肩を叩いてそれを指差すと、ババっとしまいこんで恥ずかしそうに私を見た。だらしないなんて思わないから焦らなくてもいいのに。笑って、気にしなくていいよ、と声をかけると口を尖らして返事をした。なんでちょっと不満そうなのかねえ。

いつものようにくだらない世間話をしながら、謙也の家に向かって歩いた。今日相談したいこととはなんなのか全く触れないまま。なんの話か知らないけれど人目があるところではダメなことなのかな。



「せんべいとカステラどっちがいい?」
「えっ、…おせんべいで」
「わかったカステラな」
「いや、だから」
「うちで遠慮はいらんって言うとるやろ お前甘いの好きやん」
「…ありがと」

謙也のくせに!台所に向かった背中に小さくお礼を言い謙也の部屋へと向かった。なんでそうやって私の気持ちに気付いてくれちゃうのかな!だから謙也には色々話しちゃうんだよ!と、八つ当たりのようなケチをつける。

「ほい、お茶でよかったか?」
「…ありがと」
「なんでふてくされてるん?」

笑いながら言った謙也の懐に軽くグーパン。甘いものにはお茶を、だと。気が利くじゃないか…!いつものように椅子に座り、お茶を一口飲む。うまい。

「で、話ってなに?」
「お、おお…もう本題いくんか」
「だめ?なら違う話からでも良いけど」
「…いや、先に言うわ」

謙也は一度目をつむり、それから真剣な顔で私を見た。カステラに伸ばしかけていた手をそっと戻し、姿勢を正す。な、なんだかすごく真面目な雰囲気だ。こういうの苦手なんだけども。謙也早く喋ってくれないかな。あ、謙也襟曲がってる。と表面上は大真面目な顔をしながら頭の中で考えていた。

「俺、瀬戸のことが好き」

だからきっとこれは幻聴だよね。

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