好きな人ができました


「神がいた…」

画面を見つめたままの目からはぽろぽろと涙が零れる。今までも曲を聴いて泣くことはあったけれど、この曲はレベルが違う。胸にズバンと突き刺さり最後まで心臓を鷲掴みされている感じ。これは一番のお気に入り決定だ。すぐにマイリストに登録し投稿者コメントを見る。

『善哉Pです。皿|ω・)
 授業中に前の席の奴の落書き見てたら
 なんか下りてきたんで早速作ってみました


 聴いたら泣けや?』

皿ってなに?タグには"善哉(ドS)P"やら"マイリスト数=善哉Pに善哉あげた人数"やらが並ぶ。早速善哉Pさんのマイリストを回ると一度は聴いたことあるような曲があちらこちらにある。あ、この曲先週昼休みに流れてた。なんでこんな有名なPさんを知らなかったんだろう。すぐにお気に入り登録して一つずつ聴いてみる。

「…あぁ、うん やっぱり神だ」

落ち着いたはずの涙がまた零れ始め、その日一日は寝るまでずっと泣き続けていた。これは明日腫れるな。


次の日、予想通り腫れた目はそのままに学校に行くと友達みんなに心配された。失恋でもした?って…私別に恋してないんで。あ、でも善哉Pさんの作る曲には恋してるかも。泣くほど好きな曲なんて、初めてだもん。

「瀬戸おはよー って、どうしたん?」
「忍足!いや、光速!」
「ちょ、それ大声で言わんといて!」
「あ、ごめん あの、折り入って相談が…」
「…(笑)関係やんな?んじゃ昼休み」
「屋上で」
「おう」

忍足は私が(笑)厨であることを理解している数少ない友人だ。ちなみに忍足も(笑)厨だ。ていうか投稿している。そのことで相談したいことがあるんだ。昼休みに約束を取り付け、やっと安心して教室に向かった。


お弁当を持ち屋上へ走るとすでに忍足がいた。4時間目が自習?なにそれ羨ましい!

「なんなん、相談って」
「投稿って、どうすれば良いの?」
「…は、投稿って…(笑)動画に…?」
「そう」
「え、や、…何を?」
「歌ってみた」

相談とはこのことなのだよ忍足くん。私の言葉に驚いた忍足はいつも以上に目を大きく開き停止していた。私はその間にお弁当を食べ始める。早く起動してよ、昼休み終わる。それからしばらくして、意識を取り戻した忍足は"とうこぉおお!!?"と大きく叫んだ。うるさい、響く。

「お前っ…や、確かに良い声してるけど…」
「どうも」
「…ま、まじなんか?」
「まじまじ」
「そか…なら反対はせえへんけど…」
「歌いたい曲があるんだ」

曲名を伝えると先程より驚いた様子。また停止した。お弁当を食べ終え片付けるころに起動。なんだ、デジャヴ。予鈴が鳴ったので立ち上がった。授業はサボらない主義なんだ。

「後でチャット!」
「わかったー いつものとこ?」
「おお あ、知り合い呼んでも良いか?」
「んー、なんで?」
「そいつも投稿してんねん」
「なる お願いしまーす」

手を振り別れた。やばい、勢いで歌ってみたやりたいとか言ったけど、私なんかが投稿して何になるんだ。今更後悔しても遅いよ。

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