幸村



「幸村先輩」
「ああ名字さん、こんにちは」
「…こんにちは」

苦虫を噛み潰したような顔で挨拶とか、この子礼儀を習わなかったの?まあ良いけど。自分から声をかけたんだ、用事があるんだろう?首を傾げて続きを促すと未だ渋い顔のまま吐き捨てるように言った。

「好きです」
「……はい?」
「一回で聞き取れよ」
「じゃあ表情と合わせろよ」
「幸村先輩、意外と男らしいんですね」
「好きな人のことはちゃんと知っておいた方が良い」
「聞こえてんじゃん」
「聞こえるのと理解するのは違うってことも覚えておきな」

表裏のギャップがすごいことは知っていたけれど、口が悪いのはいただけない。人のこと言えないとかそういうのは良いから、今は名字さんの話だから。
相変わらず嫌そうな顔だけど、その頬は心なしかピンク色。…表情に出すのが苦手なだけなのかな?

「それだけ?」
「…なにが」
「好きって、それだけで良いの?伝えたら終わり?」
「…意地が悪いですね」
「そんなこと知ってるんだろう?」
「付き合ってください」
「どうしようかなー」
「さいっあく」
「最高の褒め言葉だよ」

だってせっかく勇気を出して好きって言ってくれたのに、すぐに"俺も好き"って言ったらつまんないじゃないか。付き合っても甘い雰囲気を出してくれるかなんて分からないんだから、甘いとは言えないけどこの雰囲気は味わっておきたい。

「…幸村先輩」
「なに?」
「今日部活見に行って良いですか?」
「良いよ」
「放課後一緒に帰ってください」
「良いよ」
「付き合ってください」
「どうしようかなー」
「なんなんだよ」
「楽しいね」
「何が」

俺をはめようなんて10年早いよ。でもそろそろ可哀相だし返事あげないとね。せっかく部活見に来てくれて帰りも一緒なんだから、仲良くなっておかないと。

「俺も好きだよ、名字さん」
「……もう、やだ」

赤くした顔を下に向けて俺のシャツを掴むなんて可愛いことしないでよ。抱きしめたくなるじゃないか。

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