仁王



「仁王先輩!」
「名字ちゃん どうした?」
「ちょっと先輩見たくなっただけです!じゃあまたっ」
「おー」

後輩の名字なまえは小さくて俺と並ぶと余計小さく見えて…こんなんどうでもいいか。いつ俺を見たのかも分からないが、なぜか俺が気に入ったらしい。どこに気に入る要素があったんだ。"見た目で惹かれたんじゃない"と、この前言われた。尚更分からなくなった。

「あれ、なまえちゃんもういっちゃった?」
「用事あったんか?」
「んにゃ、ただお菓子で餌付けしようと思っただけ」
「…ブンちゃんがお菓子あげるなんて珍しいのぉ」
「可愛い子は特別ー」
「あっそ」

丸井が名字ちゃんを気に入っているのが嫌だなんて勝手だよな。餌付けとか可愛いとか素直に口に出せたら楽だろうに、俺の性格とは合わないその台詞がどうしても言えなかった。

「今度きたら教えろよー」
「…来た」
「は?…あ、本当だ」
「仁王せんぱーい!あ、丸井先輩も こんにちは」
「やっほ」
「どうしたん?忘れ物?」

駆け足で戻ってくる名字ちゃんの後ろには一緒に移動していただろう友達が見えた。目が合うと慌てたように顔が下を向き、名字ちゃんはこんな反応しないなーなんて思った。

「先輩?」
「ん?」
「言い忘れてたことがあって」
「…言い忘れたこと?」
「好きですよ、仁王先輩」
「…はあ」
「えっ」

にっこり笑顔で言い放って、俺のため息に不思議そうな顔。バカか、俺。
名字ちゃんが言ってる"好き"がどんな"好き"でも嬉しいとか、すっかり惚れてる。

「ありがとさん 俺も、スキ」
「えへへ ありがとうございます」
「…え、お前ら付き合ってんの?」
「付き合ってないですよ?私が好きなだけです」
「俺が好きなだけじゃ」
「…じゃあ付き合えよ」

拗ねたように口を尖らして教室に戻っていく丸井の背中を見て、二人で少し笑った。彼氏とか彼女って括りは必要ないと思うんだけど、ダメ?


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