財前



「せーんぱい」
「うわぁあ!出た!」
「人をお化けみたいに言わんといてください」
「白石助けてー!」
「ちょ、部長に助け求めるとか意味分からんっすわ そっちの方が危険やろ」
「どういう意味や財前」

名字を財前に紹介したんはただの気まぐれやった。偶然財前と話している時に名字が通って、テニス部に興味があるって前言っとったんを思い出したから。
せやから財前の好みとか名字の性格とかを忘れとった。財前が家庭的な子が好きって言っとったんも、名字が年下にはめちゃくちゃ優しいことも。

「財前くんって言うんだ、よろしくね」
「…ども」
「財前くんお菓子好き?これ昨日作ったやつなんだけど食べる?」
「…先輩、お菓子作れるんすか?」
「ん?料理は得意だよ ていうか家事全般お母さんに教え込まれてるから結構できる方!」
「なまえ先輩、付き合ってください」
「…え?」

まさか名字が財前のどストライクやなんて考えてへんかった。呆然とする名字を財前は口説き続けていた。なんとかその場は逃げ切ったが財前は意外としつこいやつで。その日から財前の猛アタックが始まった。
ちなみにその一件のせいで名字は現在後輩恐怖症。

「もうやだ財前くん怖いよ」
「最初に餌与えたんが間違いやったな」
「だって財前くんがお菓子好きなんて知らなかったもん!そんな簡単に好きになっちゃうなんて知らなかったもん!」
「恋に落ちるのは一瞬らしいで?」
「そういう話じゃなくてー!」
「ガンバレ」
「人事!?」

正直言うとこんな財前初めて見たから俺も戸惑ってる。謙也は残念な者を見るような目で財前を見ていて、ああこいつは知っとったんやなって思った。でももう手遅れや。

「なまえ先輩、今日テニス部見に来てや」
「え…や、今日は、ちょっと用事ある、かも」
「…そっすか」
「こ!今度!見に行く…から、ね?」
「…っ!はい!」

名字曰く、財前には耳としっぽが見える、らしい。犬か猫か、はたまた狼かは分からんけど。丸め込まれとるでー名字。



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