菊丸



『今日は絶対嘘ついちゃいけない日だからね!』

0時過ぎに送られてきたメールにそう書かれていて、私は首を傾げた。今日は4月1日。エイプリルフールで、嘘をついていい日、のはず。きっと分かっていてこのメールを送ってきているのだろう。嘘をついていい日にあえて絶対に嘘をつかないというのもなかなか面白いかもしれない。了解、と短く返事を返して布団に潜った。



「おはよー!」
「おはよう、今日も元気だね」
「朝からなまえに会えて幸せだからね!」
「…私も英二に会えて嬉しいよ」

学校までの道で会った菊丸は飛びつくように近づいてくると私に話しかけてきた。なんとなく分かっていたけれど、本当に嘘をつかないらしい。笑顔で言った英二に目を逸らしつつ言葉を返せば手をぎゅっと握られた。どうやら喜んでいるようだ。

「本当の本当に嘘ついちゃダメだからね!」
「はいはい 英二も嘘ダメだよ」
「分かってるよー」
「じゃあ質問 この前私の部屋にあったポッキー勝手に食べたの英二だよね?」
「……黙秘権を行使します」
「今度トッポ買ってきてね」
「うう、はーい…」

そうか、嘘をつかなければ良いんだから、喋らないっていうのもアリなんだね。まあそんなのその通りだって言ってるようなものだけど。少しだけシュンとした後、すぐに何かを思いついたのか私に向き直った。

「俺のこと好き?」
「…そういうの自分で言うの寒くない?」
「返事になってない」
「…別に今日じゃなくても、いつでも言うし」
「今聞きたいの!」
「…すき」
「俺もだーいすき」

にこにこ楽しそうに笑って、繋いだ手の指を絡めてきた。なんだかんだ言って振り回されるのも面白いんだ。わざわざ嘘をつくなんてイベント、あってもなくても英二といれば毎日楽しめる。

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