菊丸



これの続きのようなお話

「今日誕生日だろ?好きなもん買ってやるよ」

バイト先の先輩に言われて、遠慮して値引きされているものを選ぶと蹴りを入れられた。先輩様の優しさが受け取れねえのか?と綺麗な笑顔で言われ、急いで高いアイスを持ってきた。レジを通し袋に入れたそれを投げつけられしっかりキャッチをすると大きく舌打ちをされた。優しさが怖いんですよ先輩。

スーパーから出ると駐輪場の塀に寄りかかる影を見つけて、思わず足が速くなる。空を見上げてぼーっとしている彼女に飛びつくように抱きついた。

「なまえちゃんっ!」
「わ、お疲れ様英二くん」

マフラーをしていても赤くなっている頬に触れると、なまえちゃんは恥ずかしそうに目を細めて笑った。ちょっと待たせちゃったなあ。手を握ると、その手もひんやり冷たかった。



「誕生日おめでとう」
「ありがと!誕生日もバイトなんてなぁ…」
「でも、それ、先輩サンにプレゼントもらえたんでしょ?」
「ん、まあねー」

袋を振り回すとなまえちゃんは楽しそうに笑った。…なまえちゃんと一緒だったからバイトも良かったな。

「ね、なまえちゃんはプレゼントくれないの?」
「あるけどまだあげない」
「ええー!すぐほしいー!」
「だーめ」

頬を膨らませて拗ねると、握った手の力が少し強くなった。口を尖らせてなまえちゃんを見るとクスクス笑われてしまった。もー、可愛いんだから…。



「ねえねえ、もうなまえちゃん家ついちゃうよ?」
「うん」
「うんって… プレゼントくれないの?」
「…しょうがないなあ」

そういうと鞄の中を探って小さな包みを取り出した。立ち止まって俺の方を向いたなまえちゃんに合わせて立ち止まる。真っ直ぐ俺の目を見て「誕生日おめでとう」と可愛い笑顔。受け取ったプレゼントを開けると赤いクマのキーホルダーが出てきた。

「おそろい、なんだ」

なまえちゃんの携帯についた青いキーホルダーは確かに俺と色違いのものだった。恥ずかしいのか少し目を逸らしながら言い訳のように言葉を紡ぐなまえちゃん。

「英二くん赤が似合うし、私青好きだからあえて男の子と女の子の色逆にしてみました、…なんて」

本当は、それは私の代わりでね、英二くんとずっと一緒にいたいんだ。

こんなこと言って気持ち悪がられたりしないかな…、と不安そうに見上げてくるなまえちゃんをぎゅうっと抱きしめる。そんなの可愛いだけだから。耳元でありがとうと言うと、なまえちゃんも俺の背中に手を回して抱きしめ返してくれた。いつもは外だと恥ずかしがるのに、と調子に乗ってぎゅうぎゅう抱きしめていたら、どこからか聞こえた犬の鳴き声でパッと離れていってしまった。風は冷たいけれど、心はポカポカと温かかった。

「じゃあ、またね」
「うん、風邪引かないようにね」
「ん、今無敵な気分だから大丈夫」
「なにそれ」
「へへ」
「…あ、のさ」
「ん?」

俯いてしまったなまえちゃんの顔を覗き込むようにすると、目が合った瞬間なまえちゃんの顔が近づいた。なにも構えることができないまま一瞬触れた唇、真っ赤ななまえちゃん。

「誕生日おめでと!おやすみ!」

早口でそれだけ言うと逃げるように家の中に入って行ってしまった。一気に力が抜けてその場にしゃがみこんだ。

あつくてどうにかなっちゃいそう。

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