財前



体育の時間は雨だったため体育館でドッヂボールをした。運動神経なんかお母さんのお腹の中に忘れてきたから体育の成績は悪い。彼氏にいつも笑われるけど、みんながみんな貴方みたいに運動ができると思わないで欲しい。…でも、さすがにドッヂボールで顔面キャッチするとは私も思わなかった。すぐに保健室に連れていかれ冷たいタオルを当てられた。



『3組前』

え?メールにはそれだけが書かれていて意味が分からなかった。戸惑っている私を不思議に思ったのか友達がどうしたの?と声をかけてくれた。今送られてきたメールを友達に見せると"…そのドアの前にいんじゃん?"と教室のドアを指差し言った。

恐る恐るドアを開けると目の前には友達の言う通り財前くんが立っていた。目が合うと"おいで"と言うように手を広げるから、私は躊躇いもせず財前くんに抱き着いた。…落ち着く。好き。

「大丈夫やった?」
「…ちょっと、痛かった」
「ん …跡残りそう?」
「大丈夫って先生が言ってた」
「そか」

優しく頭を撫でてくれる財前くん。ゆったりしたその動きに痛みも和らぐ気がした。ぎゅっと抱き合ったまま交わされる会話はいつもより愛を感じた。

グーという音。頭を撫でていた手が止まり財前くんが私の顔を覗き込んできた。絶対に顔が赤い。財前くんはツボにはまったのかお腹を抱えて声を出さずに笑っている。失礼な、恥ずかしいんだぞ。

「な、なんで私が怪我したの知ってるの?」
「くっ…」
「…財前くん、笑いすぎ」
「やって…ふっ、おもろ」
「おもろくない」
「おもろい おもろい」
「…財前くん」
「はいはい お前の友達が走って俺の所まで言いにきてくれたんやで」
「えっ」

なにをしているのあの子達は。気をきかせたつもりなのかな。嬉しいけど。ありがと、というとまた頭を撫でられた。今日の財前くんはいつもよりも甘い。怪我をした私を労ってくれているのだろう。怪我の功名ってこういうこと?

「弁当持ってき」
「え?」
「…一緒に食わんの?」
「たっ、食べる!すぐだからちょっと待ってて!」
「ごぉー、よーん」
「待っててば」

走って教室の中に戻りお弁当を取った。にやにやと妖しく笑う友達は無視だ。せっかくお礼しようと思ったのに、多分あの子達は私と財前くんを見るのが目的だったのだろう。一緒に話していると目敏く見つけてにやにやと見てくるのだ。

「いーち、ぜー」
「はいっ」
「…ふ ようできました」

息を吐くように笑った財前くんはそのまま私の手を取り廊下を歩き始めた。

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