財前



委員会の後輩は泣きたくなるほどきつい性格だ。実際よく泣く。私が泣くと、笑いながら更にひどいことを言ってくる。一体私が何をしたと言うの。

「センパイ」
「っな、なに?」
「…なんなんその反応 うっとい」
「ごめん、なさい…」
「まあ許してやらんこともないッスわ」
「……」
「なんか文句あるん?」
「…別に、なにも」

なんで私が謝らなくちゃいけないの。なんで先輩の私が下に見られてるの。なんで君はそんなに偉そうなの。文句なんていくらでも出てくるよ。でも財前くんに言っても揚げ足取られて結局言い負かされると思うから初めから言わない。どうせ傷つくだけなんだ。

「先輩ついでにこれもやっておいて」
「…これ財前くんが先生に頼まれたやつでしょ」
「なんで俺がこんなめんどいことせなあかんの」
「……」
「先輩なんやから後輩の面倒ちゃんと見たってや」

もうやだこの後輩。財前くんが先生に頼まれた書類を引ったくり図書室を出た。あんなやつといたって何も良いことないし、ていうか害しかないし。なのになんで。

「なんでこんな哀しいの…っ」

分かってる。私は財前くんが好きだ。嫌なことを言われても面倒を押し付けられても、嫌いになんかなれなかった。なんで財前くんのことが好きなのかも分からない。良い所なんて顔くらいじゃん。

「先輩」
「なっ、なんで追いかけてくるのよっ…」
「泣いてる女子放っておくなんて男の風上にもおけないっスわ」
「いつももっと泣かすくせに!」
「やって先輩可愛いんやもん」
「ば、ばかじゃないの…!?」

なんでこんな時に限って悪態をつかないの。いつもの生意気さはどこに行ったの。ぽろぽろ零れる涙を優しく拭われ私は下を向いた。早くどっか行ってよ、放っておいて良いから。財前くんの前でよく泣くけれど今日は見られたくなかった。これは財前くんにいじめられて悲しくて出た涙じゃなくて、財前くんのことが好きで哀しくて出た涙だから。

「…胸貸しますか?」
「いらない、良いから」
「じゃあせめてこれ受けとって」

無理矢理手の中に押し付けられたものは青く柔らかいタオルだった。驚いて一瞬止まった涙はまたぼろぼろと零れ出した。なんだよ、なんで今日は優しいんだよ。優しくなんかしないでよ。

「明日目腫らしてたら怒りますから」
「…知らないもん」
「先輩は俺のもんやから、勝手に傷つかんでください」
「な…なに言ってんの ばかじゃないの…」
「良いから …もう、泣かんで」

誰が傷つけてるのか分からないの。言おうと思った言葉は、眉を下げ泣くのを我慢しているような財前くんを見たら引っ込んでしまった。ああもう…好きだ。

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