菊丸



幼なじみだからって理由で近くにいることができたのは中学までだと思った。高校に上がった途端にぐっと大人びた英二には驚くしかなくて。今まで当たり前にいた隣に並べなくなったのは私が避けたから。
大人になりたくないなんて言わないけれど、英二には大人になってほしくなかった。

「最近英二のこと避けてる?」
「なんのこと」
「僕に嘘が通用すると思ってるんだ」
「…別に避けてない」
「じゃあ嫌いになった?」
「嫌いになんかっ…なるわけ、ない」

好きだから、釣り合わないとか考えるんだよ。英二はかっこよくなったのに私はちんちくりんなまま。背だって小さいし子供っぽいし。悪いことしか思い付かないんだもん。

「英二はそんなこと気にする人じゃないと思うけどね」
「サラッと人の考え読まないで」
「ああ、つい」
「…そんなの言い訳 ただ、英二の近くが怖かっただけ」

「何が怖いの?」

ひょこっと教室の外から顔を見せたのは今話していた英二で。反応出来ずにボケッとしている私をおいて不二は出て行ってしまった。
空気読んだとか思ってるの?読めてないけど。

「なまえ?大丈夫?」
「…英二?」
「え、うん 俺だけど…どうかした?」
「なんでもない 話すの久しぶりだなって」
「あー、…だね」
「ごめんね お弁当とか帰りとか、急に断っちゃって」
「…許さないって言ったら、また一緒にいてくれる?」

いつもの楽しそうな目じゃなくて、試合してるときみたいな真剣な瞳。やめて、引き込まれる。好きなんだって、英二が大好きなの。一緒にいたら気持ちが零れる程に好きだから、ダメなんだよ。

「…なーんてね わがまま言ってごめん」
「…え?」
「なまえも忙しいんだよね 分かってるけど…やっぱり寂しい」

大人にならないで、なんて勝手だったかな?置いていかれそうだったら追いつけば良いんだよね。だって英二も一歩進んだばっかりだもん。まだ近くにいるはずだから、私も一歩進めば並べるかもしれないから。
勇気を出して英二のYシャツの裾を掴んだ。

「今日、委員会あるから…一緒に帰っても良い?」
「本当に!?」
「うん 図書室で待ってるから」
「約束だよ?破ったらお弁当作ってきてもらうよ?」
「明日、お弁当作ろうかと思ったんだけど…」
「食べる!それも約束ねっ」

私の一言で英二が笑ってくれること、なんでもっと早く気づけなかったのかな。また一緒にいても良いよね?並んで歩けるよね。
好きの気持ちが零れても、英二に受け止めてもらえそう。


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