丸井



夕日の射す放課後の教室。廊下に響く吹奏楽部の練習音。よし、雰囲気は完璧。後は予定通り"彼"が来てくれれば自分の想いを告げて、すっぱりフラれて終わり。めでたくなしめでたくなし。でもそれが現実。彼氏とか彼女とか、そんなのまだ私には早いから。きっと彼は私のことただのクラスメイトだとしか思ってない。話だって数える程しかしてないし、名前を覚えてくれてるかだって不安。それでも告白するのは、どうしてもこの気持ちを抑え切れないから。痛いくらい彼が好きだから。

「ごめん、待たせた?」
「ううん!…ごめんね 急に呼び出したりして」
「いや …話って?」

でもやっぱり緊張はするよ。いくら結果が分かりきってたって告白だもん。しかも人生初。震える手を握って丸井くんを見た。

「ま…丸井くんが、好きです」
「…あ、」
「付き合いたいとかじゃなくて、好きって伝えたかっただけ、だから…えっと、ごめんね、急に!」
「……」

頑張って笑顔を作っているけど、今にも零れそうな涙を隠し通せるかな。もう声だって震えてきちゃうし、カッコつかないなぁ…。大きく目を開いている丸井くん。きっと私なんかが告白するなんて思ってなかったよね、ごめんね不快な気持ちにさせて。でもこれで諦めるから。明日から私のこと無視したって良いから、今だけは私だけを考えていてくれてる?

「…名字、俺」
「ごめんね!もう、良いから わざわざ来てくれて、聞いてくれて、ありがとう 本当に、好きだった」

丸井くんの言葉を遮って声にしたセリフ。上手く笑えてなかったかもしれないけど、最後くらい決めたいし。"ばいばい"と小さく手を振って教室を出た。丸井くんが見えなくなった途端頬を伝う水に余計悲しくなった。使われていない教室に入ってドアに寄り掛かった。ダメだ、もう我慢しなくて良いよね。嗚咽を抑えながら一人涙を流した。本当に本当に大好きだったよ、丸井くん。



「うそ、だろ… 名字が俺のこと、好き?…両思いとか、うわっやばい!嬉しすぎて死ぬ!」

 君の思いは、
 届いているかもしれないよ
 ねえ、まだ、
 諦めなくても良いんだよ


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