千石



朝、登校して下駄箱を開けたらたくさんの紙が落ちてきた。それは呪いの手紙やストレートな悪口…では、なく。ピンク色の封筒に入っていて丸っこい字が書かれた可愛い女の子達からの手紙だった。今日もまた、一日が始まった。

校舎の中を歩くとすれ違った子に赤い顔で見られたり黄色い声を上げられたり、どこかのアイドルみたいな扱いをされる。最初は驚いていたそれにも段々慣れて当たり前になってBGMとなって、自分で言うのもアレだけれど嫌なやつだと思うよ。それでもそれが日常になるくらいキャーキャー言われてきたんだ。望んでいないのに。

「名字」
「…千石くん?」
「教室まで一緒に行っても良い?」
「うん」

男子に嫌われるのはきっと私にダメなところがあるからだろうと諦めていた。だから千石くんは貴重な男友達で私が唯一本音をこぼせる人。女の子は可愛いけど、騒がれるのは好きじゃない。なんで私が人気なのかイマイチ理由が分からない。千石くんに聞いたら"可愛いからだよ"なんて笑顔で言われて恥ずかしかったからもう絶対聞かない。
教室に着いて席に座ると今度は机の中にお菓子が入っているから紙袋に入れて机の横にかけておいた。帰るときには紙袋の中が多くなっている気がするんだけどなんでだろう。

「あ、あの…!」
「ん?なに?」
「これ…もらってください!」
「…ありがとう おいしくいただきます」
「あっ、ありがとう、ござい、ます…」

赤い顔して走って行った子の背中に手を振っていると千石くんに変な目で見られた。そして"そんなことするからモテるんでしょ"とよく分からないことを言われた。そんなことって…手振ること?

「全部だよー 名字の行動ってそこらへんの男子よりかっこいいもん」
「…嬉しくない」
「で、女の子を泣かせたくないからって優しくするんでしょ 逆に女の子泣かせじゃん」
「え、泣かせちゃってる?どうしよう…?」
「言葉の意味が違うなー」

へらっと笑って私の頭を撫でた千石くん。こういうことを自然にできるあたりも人気の理由なんだろう。…なんで私はみんなに人気なの?かっこよくも優しくも可愛くもいい子でもない私が。俯きそうになるとその前に千石くんの手が頬に当たり上を向かされた。周りから聞こえた叫び声より、心臓がうるさくて仕方ない。

「大丈夫、俺は名字の可愛いところ知ってるよ」

千石くんが知ってるなら、他の人に知られなくても良い。なんて、いつの間にか千石くんが好きになっていたみたいだ。

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