数式を解き続けて数時間。いくら数学が好きで得意でも、疲れは溜まる。眉間を押さえ、結んでいた髪をほどいた。電源を切っていた携帯をつけると彼からメールが届いている。

件名:おつかれ
本文:勉強終わったらちょっと時間くれへん?寝不足なのにほんまごめんな(´・_・`)

まだ勉強は終わっていないけれど、どうしても彼の声が聴きたくなって発信履歴の一番上を押した。私が勉強中携帯の電源を切ってしまうことも、携帯の電源をつけたときに不在着信があると落ち込んでしまうことも、彼は分かっていてメールをくれる。

『もしもし…?』
「謙也、メールありがと」
『ん 勉強は?ひと段落ついたん?』
「そんなとこ 謙也の声聴きたくなったから電話しちゃった、ごめんね」
『俺は全然なんもないし 俺こそメールしちゃってごめん』
「嬉しいよ!私、謙也がいるから頑張れるんだから」
『…俺も一緒やから頑張れるで』

声だけで、彼が今優しく笑っているんだろうということが想像できて、触れたくてしょうがなくなった。力強く抱きしめてほしい、なんて言ったら驚くだろうな。クッションをぎゅっと抱きしめながら謙也の話に相槌を打つ。今日もテニス頑張ったんだね、相変わらず後輩くんに舐められてるの、はいはいスピードスターはすごいわー。電話の向こうで楽しそうに話す謙也に元気をもらって、またやる気が出てきた。

「謙也、電話付き合ってくれてありがとー」
『あ、もう勉強戻るん?』
「そのつもり」
『…なぁ、今日そっち泊まりたい』
「え?」
『勉強の邪魔はしないし、俺も勉強するから!一緒にいたいねん…』
「…わかった、いいよ」
『ほんま!?本当に行くで?』
「おいで 私も謙也に会いたい」
『すぐ行く!』

最近勉強ばっかりでデートもろくにしてあげられなかったからなあ。それに甘えてくれるの、嬉しい。
おいで、なんてちょっと上から言ってるけど、きっと会いたい気持ちは私のほうが大きいんだろう。勉強嫌いじゃないけど謙也と会う時間が減るのは嫌だ。
走ってきている謙也を思い浮かべると、目の前の問題なんかあっという間に解けてしまいそうだ。
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テーマ「人外ファンタジー」
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