※夫婦



昨日、姉上が結婚した。

相手はなんとあの、万年金欠でダメな大人を見本にしたような糖尿男だ。
なんであの男なんだ。腹が立つ。
いや、確かに姉上が心底惚れて連れて来た人なら喜んで赤飯炊くとは言ったがそれとこれとは別問題だ。


「新八ィ。もう姐御は銀ちゃんのものになっちゃったんだから、覚悟決めろヨ」

いつの間にか声に出していたらしく、側にいた神楽ちゃんに突っ込まれた。


「でも神楽ちゃん!神楽ちゃんだって姉上のことあんなに好いてたじゃん!なのに相手があんなちゃらんぽらんでいいの!?」


神楽ちゃんだって姉上には幸せになってほしいはずだ。あんなどうしようもない男がほんとに姉上を幸せにできるのか、不安しかない。
神楽ちゃんはそんな僕を見て、やれやれとでかい溜息を吐いた。


「新八は馬鹿アル。今まで何見てきたんだヨ。眼鏡のくせに何も見えてないなんてやっぱ新八は新八アルな」


出された茶菓子を頬張りながら目配せした方を目で追うと、縁側に噂の二人が座って(男の方は寝転がっている)談笑していた。
そもそもなんで結婚したのに家にいるんだ。普通、逆だろ。婿養子になったならわかるけど、姉上はしっかり坂田の名を貰った。
まぁあの人の家っていっても万事屋ぐらいしかないからな。ほんとダメだな、新婚だったら二人の家を持つべきじゃないのか。僕は断じてそんなん認めねーけど、姉上はこれで平気なんだろうか。

またそんなことを考えていたら神楽ちゃんにどつかれた。
再び縁側に目を向けると姉上は笑っていた。
いつも綺麗に笑ってるけど、やっぱりいつものそれとは違うように見えた。
隣でごろごろしている男もいつものやる気のない顔だが、いつもより少し穏やかな顔をしているように見えた。
そんな二人をこたつに顎をのせぼーっと見ていたら、さっきまでこたつで寛いでいた神楽ちゃんがこたつから出て、こいこいと手招きをしている。
こそこそと忍ばせる足の先は縁側を向いている。


「神楽ちゃん何するの?」

「別に何もしないネ。こっからだと何話してるか聞こえないアル」

「会話聞くだけ?…僕はいいよ」


あの姿だけでも憂鬱になるのに、これ以上どうしろというんだろう。
神楽ちゃんはそんなのお構いなしに「これは試練ネ」と言って無理矢理引きずられていった。


「あー……」

「お茶ですか?今注ぎますね」

「おー」

「ちょっと銀さんそのドラ焼き全部食べちゃダメですよ。神楽ちゃんと新ちゃんの分もあるんだから」

「えー、あ」

「何やってるんですか……こら、落ちた物を食べない」

「三秒以内に拾やぁいいんだよ」

「またそんな子供みたいなこと言って…」

「あーいてて」

「首痛いんですか?そんなかっこで寝転がってるからですよ。ほら、どうぞ」

「…ん」

「ふふ、甘えたさんですね」

「バカヤローこれは男の夢だ」

「はいはい」


なんだこれ?何このフワフワした空気?あの男からこんな空気出るはずがない。そもそもあの男ちゃんと会話らしい会話してなくない?あーとかうーとか訳わかんねーよ!

そこで僕の考えは止まった。あんな言葉足らずで普通なら訳がわからないのに姉上にはわかってしまうんだなと。そんなのまるで


「長年連れ添った夫婦みたいアルな」


昨日、結婚したからとかじゃなくこの二人は前々からこんな感じだった。
きっと姉上には銀さんが考えてることがわかるんだろうし、銀さんには姉上の考えてることがわかるんだろう。


「熟年離婚も近そうアル。姐御が銀ちゃんを捨てる日もそう遠くないかもしれないアルな」


隣にいた神楽ちゃんはニヤリと笑ってそう言ったが、きっと半分冗談で半分本気だろう。


「バカヤロー神楽、熟年離婚なんて縁遠いね。俺らはじじばばになっても毎晩合体 ぶっ!!」

「銀さん殺されたいのかしら?」

「いでででで!嘘!うそうそ嘘ですごめんなさい!」


二人ともこちらに背を向けているのに、最初から気づいていたのか、今の神楽ちゃんの言葉で気付いたのか。


「銀さん、そろそろそこから頭どかしてください」

「新八くん、そろそろシスコンから卒業してください」

「いーなー銀ちゃん姐御に膝枕やってもらえて」

「神楽ちゃんもどうぞ」

「いいアルか!?」

「ええもちろん。よければ新ちゃんもやる?」

「え!?ぼ僕もですか!?」

「あのお妙さん、定員オーバーですよ。僕はどうなるんですか」

「銀さんはもうどいてください」

「酷い!俺、旦那様よ!?もうちょっと優先してくれてもいいんじゃねーの!?」

「そうゆうことは稼いでから言え」

「………すいません」

「さぁ新ちゃんもいらっしゃい」


どかっと隣に座りぶつぶつと文句を言いながら茶を啜る姿がやけに可笑しかった。悔しいけどこの人はちゃんと姉上を愛してくれてるんだな。


「義弟思いの旦那様でよかったわ」


そう姉上に言われてポリポリと頭を掻きながらまぁな、と言った男の顔はやはり穏やかだった。そしてそれを見る姉上の顔を下から見上げるとそれは幸せそうな顔だったし、神楽ちゃんも幸せそうに笑ってた。僕もそんな顔ができているか不安だが皆と同じ顔をしていればいいと思った。



11月22日

認めたくないけどお似合いじゃないか







「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -