「新ちゃん」

凛としたよく通る声が聞こえた。

「私の目を見て、ちゃんと答えなさい」

「……」

「本当に、あなたじゃないの?」

「………ごめんなさい…僕……僕がやりました」

「過ぎた事はしょうがないわ、けど、なぜ嘘をついたりしたの」

「ごめんなさい…僕…怖くて……」

「人を守る嘘なら許します。だけど自分を守るだけの嘘をつくなんて新ちゃん、あなたそれでも侍ですか」

「ごめ、ごめんなさい…ごめんなさい」

「次はないわよ」

往来の真ん中で少女と少年(姉弟だろう、どことなく似ている)のやり取りがはっきりと聞き取れた。見回り中で暇を持て余していた為だろう。

「おっかねぇ」

じろりと睨まれた目は黒々と力強く、柄にもなく内心怯んでしまった。
少し離れているし独り言のようにぼそりと言ったはずなのに聞こえたらしい。とんだ地獄耳だ。

おおよそ五年前のことだった。




「沖田さん」

「へェ」

あれから数年が経って、見回り中に見た姉弟のことなんてすっかり忘れていた。
ただ近藤さんがぞっこんとゆうことで知り合った彼女のあの目を見る度に襲ってくる既視感には毎度首をかしげていた。

「それ、本当ですか?」

「 本当ですよ」

「じゃあ私の目を見て、ちゃんと答えてください」

「……本当、です」

さらりとかわそうと思ったら思いの外言葉に詰まった。

「…」

何も言わずにこちらの目をじっと見据えるその目を見ていたらいつだったか見回り中に睨まれた少女のことを思い出した。
なぜ忘れていたのか不思議なほどに、その時の天気だとか、気温だとかが鮮明に蘇った。
いまだ逸らさないその目はあの時の目と何も変わっていない。強いて言えば力強さを増しているふうに見えた。

「………負けやした。嘘です」

「やっぱり」

ふ、と綻んだ目元。それを見てあの日の、更に蘇る記憶。




「それじゃあ、早く謝って仲直りしてきなさい」

とても優しい目だった。弟であろう眼鏡の少年は今度は安堵したのか、それでも泣きそうに顔を歪めながら頷いた。その頭を慰めるようにぽんぽんと撫でた手もひどく優しく見えた。
ああ、羨ましいなぁ と遠く離れた姉を思ったのを覚えている。




「正直に言ってくれたかわりにお茶お出ししますね」

「そいつぁありがてぇや」

羨ましかったからといって別に彼女に姉の代わりを求めてるとかそんなことは全くない。
ただこうやって、たまに山崎や土方のヤローの代わりに近藤さんを探しにこの家に来て、縁側に座って出されたお茶を飲んでいるとひどく穏やかな気分になるのは自分でも自覚してる。
しかしその理由がわからずいつもこの場所に座った時に考えてみるが、さっぱり答えが出なくて面倒になっていつも途中でやめてしまう。
今日も例外ではなく、お茶を用意してくれているであろう彼女を待っている間に自問自答してみるが

「やっぱりめんどくせぇや」

「なんです?」

「いやいや、こっちの話で」

狙ったかのようなタイミングで戻ってきた彼女にそう返して、出されたお茶を一口飲むと調度いい熱さで、胸のあたりがじんとした。




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