旧御礼文
※5-3




「ちょっと坂田君!今日の宿題出してないのあなただけよ!」

「あー?はいはい宿題ね…ほらよ」

「ほらよって…なにこれ何も書いてないじゃない」

「そりゃなんもやんなかったんだから何も書いてねえよ」

「ねえよじゃねぇぇぇ!」

毎度お馴染みの喧騒。
学校一騒がしいこのクラスもこの怒号が飛ぶと静まり返る。続いて痛々しい音と男子生徒の呻き声が聞こえてくる。


「お前、ほんと何食ったらそんなんなるの?まじでゴリラに育てられたの?」

「坂田君、遺言はそれだけ?」

「うそうそ!」

「明日はちゃんと宿題やって出してよね」

「はいはいうるせーなー。お前は俺のかあちゃんかっつーの」

「そうよ」

「そうよ…って、俺かあちゃんはもうちょっと美人が
「何か言ったかしら?」

「イエ、なにも」

「そう。明日ちゃんとやってこなかったらどうなるかわかってるわよね?」

「……はい」


くるりと踵を返し、颯爽と去って行く後ろ姿を引き攣った顔で眺めていると嫌みったらしい声が聞こえた。

「さすがのがき大将でもやっぱ委員長には敵いやせんねぇ」

「うるさいよ総一郎くん」

「総悟です。しかしあんたらも毎朝毎朝よくやりますねえ。飽きないんですかぃ」

「飽きるも何もあいつが毎朝うるせーんだよ。気にくわなけりゃ暴力だし。恐怖政治だよもう。誰だあいつを委員長なんかにしたの」

「ほぼクラス全員の意向ですぜ。それに、そんなこと言ってまんざらでもねーんでしょう」

「は?何が?」

「志村さんとの毎朝の痴話喧嘩ですよ」

「おいおい総一郎くん、何を言ってるのかな?あれは痴話喧嘩じゃなくて一方的な暴力と言うんだよ」

「総悟です。俺には仲良くじゃれあってるようにしか見えませんがねえ」

「バカじゃねーの。女とか別に興味ないしぃー。あいつとはただの腐れ縁っつうか幼馴染みだし、昔っからおせっかいなんだよあいつ」

「いいじゃねーですか。男の憧れみな○ちゃんですぜ」

「どこの世界に幼馴染みに右ストレート決めるみ○みちゃんがいんだよ。俺はそんな○なみちゃんやだね」

「そこが志村さんの魅力じゃないですかぃ」

「おいおいお前まさかあのゴリラに惚れてるんじゃあるめーな」

「さあ。一人の人間として好きなのは事実ですけどね」

「ふーん…あ、そう」

「いつまでもぐずぐずしてたら他の野郎に取られちまいますよ」

「だから!別にそんなんじゃないっつってんだろ!俺と志村はただの幼馴染み!それ以上でも以下でもねぇよ!」

「意地っ張りですねぇ。じゃあ俺が貰うとしますかね」

「え…お、お前やっぱ」

「なんにしろもうあんたには関係ねぇ話ですがね」

「いや、ちょっと」

「あれ?やっぱり幼馴染み以上の感情があるんで?」

「ばっ…んなわけねーだろあんなまな板女。頼まれてもごめんだね」

「…らしいですぜ志村さん」

「え…」


後ろを向くとついさっき自分の席に戻ったはずの女生徒が笑顔を湛えて立っていた。


「だ・れ・が、まな板ですって?坂田くん」


拳を握りぼきぼきと嫌な音をさせた彼女は今日二度目の鉄拳を振り下ろした。


「誰があなたみたいなのに頼みますか。こっちだって願い下げです」

「あ…おいなんか用あったんじゃねーの」

「何もないわ!」


ずかずかと教室から出ていった委員長を呆然と見送っていたら、黙ってやり取りを見ていた沖田がやれやれといったように首を振った。


「志村さん、泣いてたように見えましたけど」

「…あいつが、泣くわけねえだろ…俺だって数回見たことあるかないかだぞ」

「何か相当傷つくようなことがあったんじゃねぇですか」

「別に俺はなんにも」

「あーはいはい、本当じれってえや」


そう言うと沖田はどこから出したのか、メガホンを口に当て大声で叫び出した。


「おーい野郎共ー坂田は志村さんのことなんとも思ってないってよー。これで邪魔な野郎は消えたぜー。ついでに志村さんは傷心だから落とすなら今がチャンスだぜー。心置きなく当たってこーい」

「!お前、何を」

「だって関係ねぇんでしょう?委員長、密かに狙ってる奴多いんですぜ」


またいつもの嫌味な笑顔で言われて周りを見ると、なるほど確かに耳を傾けている者が何人かわかった。


「とゆうわけなんで」

「おいちょっと、どこ行くんだよ」

「もちろん志村さんを探しに行くんでさぁ」

「え、ちょっと待」

「まぁどうなろうがもう関係ないでしょうがね」

「いやちょっと」

「ただの幼馴染みなんでしょう?」

「いやうんまぁ、そうだけど」

「じゃあ志村さんが誰とどうなろうが、何も言う権利はないわけだ」

「……」

「例えばもし俺が志村さんと付き合ったとしても」

「……」

「デートしたり手ぇ繋いだり、それ以上のことをしてもあんたがとやかく言う筋合いはないですねぇ」


それだけ言うと沖田は背を向けて教室を出て行こうと歩きだした。


「ちょ、ちょっと待てぇぇぇ!!わかった!わかったから!」

「何がですかぃ?」


振り返った沖田は口の端をわずかに吊り上げた。
それにも気付かず、先程のメガホンを手に取って大声を張り上げる銀時の顔は茹蛸のようだ。


「おいてめえらよく聞け!あいつはちょっとやそっとじゃ落ちる女じゃねえ!だからやめとけ!」

「……この期に及んでまだ逃げの態勢ですかぃ」

「…だから!……あー」


がしがしと頭を掻いて更に大きな声を張り上げた。



「あいつはだめだ!!譲れねー!」


そう言い捨てると顔を下に向けたまま走って教室をあとにした。
行く先は皆わかっていただろう。


「まったく、損な役まわりでぃ」


沖田が溜め息を吐きながら窓の下を見れば、銀髪と黒髪が目に入ったがそれ以上追いはせず、憂さ晴らしに土方を使うか、と考えた。




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